English version: English version
この記事は サイトスカウター版 と エゴサる版 にも掲載しています。
要約
- 委任されている .jp ドメインを網羅的に集めた台帳(2026-10-29 時点で 1,197,208 件、JPRS 公表の登録数 1,901,067 件の 63.0%)を母集団に、全件へ同じ非侵襲の観測(DNS 照会・TLS 1 回・HTTP GET 1 回)を行った途中報告。ランキングや検索履歴から選んだ名前ではなく、「存在する .jp ドメインのほぼ全体」を相手にしている。
- 到達率(DNS が引けて HTTP 応答があった割合)は 87.9%。登録ドメインそのもの(
example.jp)で 84.1%、応答が無かった名前に限ってwww.を付けて 1 回だけ試すと 44,801 件が加わった。自治体(lg.jp)と地域型はwww.でしか応答しない名前が多い。 - 応答した 1,052,121 件のうち、HTTPS 強制 95.1%、HSTS 14.3%、CSP 7.2%、X-Frame-Options 13.2%、版の非表示 83.9%。HTTPS 化と版の非表示はほぼ行き渡った一方、サイト側で設定する HSTS・CSP は世界 500 万サイト(記事 G)の半分以下にとどまる。
- PHP の版を名乗るサイトは応答サイトの 10.3%、うちサポート終了版(8.1 以前)は 52.9%。2026 年の PHP 重大脆弱性(CVE-2026-109618 / 109619)の影響範囲に入る版を名乗るサイトは、版を名乗るサイトの 49.1%。公開 CVE の範囲内の版を名乗るサイトは応答サイトの 8.1%(上限値)。
- WordPress と判定できたサイトは応答サイトの 33.0%。トップページから参照されているプラグインは Contact Form 7 が 49.0% で突出し、照合できた主要プラグインの版で公開 CVE の範囲内に入るサイトは WordPress サイトの 21.9%。
- メールの送信ドメイン認証は、DNS が引けた名前のうち SPF 82.6%、DMARC 34.9%。DMARC があっても大半は
p=none(監視のみ)で、受信側に拒否・隔離を求めるquarantine/rejectは合わせて 3.8%+2.1% にとどまる。 - 比較のため、筆者がレジストラとして蓄積したドメイン評価データから日本語と判定済みの .com / .net / .org を 131,622 件観測した。応答した日本語 gTLD サイトは WAF/CDN の前段が 44.8%(.jp は 10.8%)と多く、HSTS は 16.0% だった。
1. この調査の位置づけ
これまでの「セキュリティ露出統計調査 2026」(記事 A〜D)と世界 500 万サイト調査(記事 F・G)は、Tranco・Majestic などのランキングや、サイトスカウターの検索履歴から母集団を作っていた。日本のサイトについては、ランキングに載るほど利用される名前か、誰かが調べた名前に偏る。記事 B で日本の 13 万件(検索履歴由来)の到達率が 11.7% と低かったのはその表れである。
本稿は母集団を変えた。JPRS が公表する .jp の登録数に対して、Common Crawl のウェブグラフ・CT ログ・自社のドメイン資産・辞書と法人名からの候補生成などで名前を集め、.jp の権威 DNS に委任の有無を 1 件ずつ確かめた「ドメイン全数台帳」(JP 疑似ゾーン)を作り、その委任ありの名前すべてを観測した。台帳は 2026-10-29 に凍結し、その時点の委任あり 1,197,208 件を母集団とする。JPRS 公表数(2026-10-01 時点 1,901,067 件)に対する網羅率は 63.0% で、残りは台帳側の収集が進んだ段階で最終報告に加える(図 1)。
図 1 母集団と網羅率(種別別、JPRS 公表数に対する台帳の委任あり件数)

母集団の偏りについて最初に書いておく。 台帳の名前の 8 割は Common Crawl のウェブグラフ由来で、どこかからリンクされている名前に寄っている。リンクを持たない名前(メール専用・取得しただけの名前・社内向けなど)は網羅率の残り 4 割に多いと考えられ、本稿の到達率と対策実施率は「リンクされたことのある .jp ドメイン」の水準として読むのが正確である。種別では co.jp が 71.4%、汎用 JP が 58.8% の網羅率で、種別間の比較にも網羅率の差が混ざる。
2. 調べ方
各ドメインに対して、DNS 照会、TLS ハンドシェイク 1 回、HTTP GET 1 回だけを行った。ブラウザでトップページを 1 回開くのと同じアクセスで、ポートスキャン、パスの探索(/wp-login.php 等)、認証の試行、攻撃コードの送信は行っていない。追加の DNS 照会として、メール関連の TXT(SPF・DMARC)、MX、AAAA を引いた(HTTP・TLS は増えない)。
- 観測元: 国内のさくら VPS・ConoHa・OCN 回線など 9 台・15 プロセスのワーカーに分散し、1 台の集約サーバーが待ち行列を配った。配布順は乱数で、同じ DNS 事業者や共用サーバーのドメインが続けて観測されないようにした。毎分の観測は全体で約 3,500〜4,400 件、共用サーバー 1 台あたりでは毎分 1 回未満である。
- ホストの単位: 台帳の名前(
example.jp、example.co.jp、city.example.lg.jp)をそのまま観測し、DNS 未解決か接続失敗に終わった名前に限ってwww.<名前>を 1 回だけ試した(155,694 件)。1 名前につき GET は最大 2 回で、到達した側の 1 行を採る。「到達率」は apex とwww.のどちらかで HTTP 応答があった割合で、apex 単独の到達率も併記する。 - 重複の扱い: 同じホストを複数回観測した場合は、DNS 未解決以外の最新 1 行を採り、無ければ最新 1 行を採る。記事 A〜G で既に観測していたホスト(.jp で約 10 万件)も同じ観測窓で測り直した。
- 指標の定義は記事 A〜G と同じ。HTTPS 強制=HTTP で開いたときに HTTPS へ転送される、HSTS=応答に
Strict-Transport-Securityがある、版の非表示=ServerとX-Powered-Byにバージョン番号が無い、CVE 露出=ヘッダーに書かれた版が公開 CVE の影響範囲に入る(上限値)。 - CVE の照合には 2026-10-29 に更新した NVD(米国立標準技術研究所の脆弱性データベース)のミラーを使い、CPE の製品名(
php:php、apache:http_server等)まで一致したものだけを数えた。PHP のサポート判定は観測日で固定し、8.1 以前をサポート終了、8.2 をセキュリティ修正のみ(2026-12-31 まで)、8.3〜8.5 をサポート中とした。
3. 到達率 ― 9 割弱の .jp ドメインがウェブで応答する
観測した 1,197,206 名前のうち、HTTP 応答が得られたのは 1,052,121 件(87.9%)。apex だけでは 1,007,320 件(84.1%)で、www. で補った 44,801 件が加わった。apex での失敗の内訳は DNS 未解決 10.5%、接続失敗 2.5%、TLS エラー 2.9%(図 2)。
図 2 種別別の到達率と失敗の内訳

到達率は種別で大きく違う。co.jp は 91.9%(apex 87.2%)、汎用 JP は 85.8%(apex 83.0%)、or.jp は 94.9%。一方、lg.jp(1,040 件)は apex で 5.5% しか応答せず、www. を付けると 75.2% になる。地域型(1,834 件)も apex 25.4% → 73.0%、go.jp は 51.6% → 86.9%、ac.jp は 74.5% → 94.7%。自治体・官公庁・大学や地域型のドメインは、登録名そのものに A レコードを置かず www. だけを運用する慣行が強い。ランキング由来の調査(記事 A〜G)は apex で観測しており、この種の名前を「不達」に数えていたことになる。
到達には 403 Forbidden も含む(ヘッダーは取れているため)。応答のうち 403 は 7.4% で、多くは中身の無いドメインに共用サーバーが返す既定の応答だった。WAF による拒否と見分けるために事業者別の 403 率も監視したが、標本試験から変化は無かった。
4. 対策の実施率 ― HTTPS は行き渡り、ヘッダーは手つかず
応答した 1,052,121 件に占める実施率を表に示す。比較のため、gTLD 日本語サイトの標本(第 14 節)と、記事 G の .jp(Tranco と Common Crawl に載った .jp)も並べた。
| 対策 | JP 全数(n=1,052,121) | gTLD 日本語サイト(n=38,092) | 記事 G の .jp(n=44,169) |
|---|---|---|---|
| HTTPS 強制 | 95.1% | 86.6% | 96.1% |
| HSTS | 14.3% | 16.0% | 18.2% |
| HSTS(max-age 1 年以上) | 11.2% | 13.3% | ― |
| CSP | 7.2% | 9.8% | 8.3% |
| X-Frame-Options | 13.2% | 18.4% | 19.2% |
| X-Content-Type-Options | 19.3% | 15.9% | 23.1% |
| Referrer-Policy | 5.3% | 16.1% | ― |
| Permissions-Policy | 2.6% | 8.7% | ― |
| 版の非表示 | 83.9% | 79.4% | 80.2% |
| WAF/CDN が前段 | 10.8% | 44.8% | 18.0% |
| TLS 1.3 で接続 | 75.8% | 82.2% | ― |
HTTPS 強制は 95.1% で、HTTP のまま残るサイトは少数になった。版の非表示も 83.9% と高い。国内の共用レンタルサーバーの多くが Server ヘッダーに版を出さない設定を標準にしているためとみられる。一方、HSTS は 14.3%、CSP は 7.2%、X-Frame-Options は 13.2% で、サイト運営者が自分で設定する必要があるヘッダーは 1 割前後にとどまる。
既存の調査と並べると(図 3)、母集団を「ランキングに載る .jp」から「存在する .jp のほぼ全体」に広げたことで、HSTS は記事 G の .jp(18.2%)から 14.3% へ、X-Frame-Options は 19.2% から 13.2% へ下がった。記事 B の Tranco 由来の日本(HSTS 27.5%)や Majestic 由来(20.2%)とは母集団が違うので、改善・悪化として読まないこと。よく使われるサイトほど対策が進んでいるという傾向が、日本でも全数に近い母集団で確かめられたと読むのが妥当である。
図 3 既存調査との比較(同じ指標、母集団が違う)

種別別では(図 4)、go.jp(596 件)と lg.jp(782 件)が HSTS(34.6%・30.1%)と X-Frame-Options(43.6%・49.7%)で突出して高い。ただし lg.jp は版の非表示が 44.9% と低く、サーバー製品の版を名乗るサイトが多い。co.jp(330,598 件)は HSTS 12.2%、CSP 7.5% で、汎用 JP(HSTS 15.5%)と大差ない。応答が 1,000 件に満たない種別(go・ad・lg)の率は件数を併記しており、見出しには使わない。
図 4 種別別の HSTS・CSP・X-Frame-Options・版の非表示

Cookie を発行していたサイト(213,345 件)では、Secure 65.0%、HttpOnly 67.8%、SameSite 指定 21.6%。
5. NS 事業者別 ― 対策の水準は DNS の預け先で大きく違う
台帳は各ドメインの NS(権威 DNS サーバー)を記録しており、NS のホスト名から事業者を正規化している。NS を預けている事業者の上位 10 社と、それ以外で、対策の実施率を比べた(図 5)。NS 事業者はドメインの DNS を預けている事業者で、ウェブを置いているホスティング事業者とは限らない。NS が Xserver でもウェブは別の場所にあることがあるため、本節の値は「その事業者のサーバーが脆弱」という意味ではなく、「その事業者に DNS を預けている利用者のサイトの状態」である。版表示と CVE はサイト側の設定で変わるので、事業者別の CVE 露出は出さない。
図 5 NS 事業者別の HSTS・CSP・版の非表示

| NS 事業者 | 応答サイト | HSTS | CSP | 版の非表示 | WAF/CDN 前段 | TLS 1.3 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Xserver | 194,701 | 4.1% | 3.4% | 98.8% | 4.1% | 97.5% |
| さくらインターネット | 152,912 | 3.9% | 3.1% | 89.7% | 2.5% | 95.0% |
| GMOペパボ | 106,435 | 8.8% | 5.8% | 47.4% | 6.0% | 92.3% |
| AWS Route 53 | 71,042 | 22.0% | 8.5% | 75.3% | 32.9% | 64.8% |
| GMO(DNSv) | 64,312 | 20.8% | 15.4% | 81.6% | 14.5% | 75.3% |
| GMO | 55,471 | 5.8% | 4.9% | 91.1% | 6.5% | 82.2% |
| GMO(VALUE-DOMAIN) | 29,276 | 62.6% | 10.8% | 88.7% | 3.8% | 90.1% |
| Cloudflare | 29,306 | 23.1% | 11.9% | 90.8% | 83.5% | 94.6% |
| customer.ne.jp | 30,562 | 2.7% | 1.8% | 75.0% | 1.7% | 5.6% |
| CPI(KDDI) | 12,600 | 23.7% | 2.7% | 90.8% | 2.3% | 44.2% |
| その他 | 305,504 | 21.5% | 10.5% | 84.7% | 10.8% | 53.4% |
| (参考)GMO 系計 | 266,490 | 16.6% | 8.3% | 71.5% | 7.7% | 82.1% |
国内の共用レンタルサーバー系(Xserver、さくらインターネット、customer.ne.jp)に DNS を預けている名前は到達率が高い一方、HSTS は 4.1%・3.9%・2.7%、CSP は 3.4%・3.1%・1.8% と低い。版の非表示は Xserver が 98.8% とほぼ全数で、customer.ne.jp は 75.0%。customer.ne.jp に DNS を預けている名前は、TLS 1.3 で接続できたサイトが 5.6% しかなく、TLS 1.3 に対応していない基盤に載っているとみられる。共用サーバーでは事業者が標準設定でヘッダーを付けないことが多く、利用者が .htaccess などで自分で足さない限り付かない。AWS Route 53 と Cloudflare に DNS を預けている名前は、HSTS・X-Frame-Options が高く、WAF/CDN の前段も多い。自社でサーバーを運用するか、CDN を前段に置く構成が多いためと考えられる。GMO(VALUE-DOMAIN)に DNS を預けている名前は HSTS が 62.6% と上位 10 社で最も高い。CPI(KDDI)は TLS 1.3 で接続できたサイトが 44.2% にとどまる。GMO 系は 5 区分を別々に示した。区分ごとの差が大きく、GMOペパボに DNS を預けている名前は版の非表示が 47.4% と他より低い(X-Powered-By に PHP の版を出すサーバー構成が残っている)。
利益相反の開示: 筆者はスカイクリア株式会社を通じてドメイン事業(JPRS 指定事業者)を営み、元 GMO グループ子会社の役員である。本節の対象には GMO 系事業者が含まれる。数値は全事業者に同じ方法・同じ基準で算出している。
6. TLS と証明書
接続に使われた TLS の版は、TLS 1.3 が 75.8%、TLS 1.2 が 15.1%(gTLD 日本語サイト 82.2% / 2.4%)。TLS 1.2 で接続したサイトは「TLS 1.3 を選ばなかった」サイトで、TLS 1.0/1.1 しか話せないサイトは接続に失敗し、他の失敗と区別できない(版を固定したハンドシェイクは「TLS 1 回」の原則を超えるので行っていない)。証明書は DV が 86.4%、OV が 4.6%(図 6)。
図 6 TLS の版と証明書の認証レベル

7. サーバー製品と版の露出
Server ヘッダーに名乗る製品は、nginx 47.7%、Apache 34.9%、Cloudflare 5.8%、LiteSpeed 2.9%(図 7)。世界 500 万サイト(記事 G)で多かった Cloudflare は少なく、共用レンタルサーバーで多い nginx と Apache で 8 割を占める。版番号まで名乗る割合は Apache で 7.9%、nginx で 2.4%。
図 7 Server ヘッダーに名乗る製品と版の露出率

8. PHP の版とサポート状況
PHP の版を X-Powered-By などで名乗るサイトは、応答サイトの 10.3%(108,894 件。記事 B の日本 8.6%)。名乗った版のうち、サポート終了版(8.1 以前)は 52.9%(57,554 件)。PHP 5 系が 13,399 件、7 系が 40,838 件残っている。セキュリティ修正のみの 8.2 は 5,378 件、サポート中の 8.3 以降は 45,962 件(図 8)。
図 8 PHP 版露出ホストのサポート状況と、露出した版の分布

2026 年に公開された PHP の重大脆弱性 CVE-2026-109618 / 109619(修正版 8.2.35 / 8.3.36 / 8.4.27 / 8.5.12)について、NVD が影響範囲とする版を名乗るサイトは 53,506 件で、版を名乗るサイトの 49.1% にあたる。サポート終了版はこの修正を受け取れない。8.2 系もセキュリティ修正の提供は 2026 年 12 月 31 日で終わる。
種別では、co.jp の版を名乗るサイトのサポート終了版は 52.2%、汎用 JP は 53.4%、or.jp は 48.2%。PHP の版を名乗ること自体は直接の脆弱性ではないが、サポート終了版を名乗ることは攻撃者に対象を教える。
9. CVE 露出(上限値)
ヘッダーに書かれた版が公開 CVE の影響範囲に入るサイトは、応答サイトの 8.1%(85,434 件)。うち RCE(リモートコード実行)系の CVE を含むのは 5.5%、Windows 上の PHP-CGI に限られる CVE-2024-3566 を除くと 1.6%。CRITICAL を含むのは 7.3%(図 9)。製品別では、PHP の版を名乗るサイトの 53.7%、Apache の版を名乗るサイトの 89.2%、nginx の版を名乗るサイトの 67.7% が、公開 CVE の範囲内の版だった。
図 9 CVE 露出率(上限値)と製品別の内訳

本調査は攻撃を試みていない。版表示に基づく CVE 露出は、ディストリビューションのバックポート修正を反映できないため上限値であり、版を隠しているホストの実態は分からない。CVE-2024-4577(PHP-CGI)は Windows・CGI・特定ロケールが前提で、非侵襲の観測では成立条件を確認できないため、版が一致しても判定不可として扱った。
10. 基本対策スコア
HTTPS 強制・HSTS・CSP・X-Frame-Options・X-Content-Type-Options・版の非表示・有効な証明書の 7 項目のうち、満たした数を 0〜7 のスコアにした。JP 全数の平均は 3.24(gTLD 日本語サイト 3.11、記事 G の世界合算 3.67)。3 点が 54.6% でもっとも多く、7 点満点は 2.3% にとどまる(図 10)。「HTTPS と証明書と版の非表示まではできているが、ヘッダーは手つかず」という形が日本のサイトの典型である。
図 10 基本対策スコア(0〜7)の分布

11. 法人区分・地域
台帳は WHOIS(JPRS)から登録者の組織名を法人らしい名前だけ保存しており、国税庁の法人番号公表データと突合すると、法人の種別と所在地が分かる。ただし本稿の時点では WHOIS の取得が委任あり名前の 37.0% にとどまり、法人番号と突合できた名前は全体の 3.2% しかない。法人区分の比較は参考表(図 11)にとどめ、図での比較は WHOIS の全件取得が終わる最終報告で行う。
図 11 法人区分(参考。法人番号と突合できた名前のみ)

都道府県は、名前そのもので確定する 3 種別(都道府県型・地域型・lg.jp、計 3,857+1,834+1,040 件)で集計した(図 12)。件数が少ない県が多いため、応答が 30 件に満たない県は灰色で示し、順位付けはしない。
図 12 都道府県別の基本対策スコア(確定 3 種別)

12. メールの送信ドメイン認証(SPF・DMARC)と IPv6
ウェブが応答しない名前でも、DNS の設定は観測できる。各名前の TXT(SPF)、_dmarc.<名前> の TXT(DMARC)、MX、AAAA を引いた(照会に失敗した名前は分母から除く。DNS が引けたのは 1,120,831 件)。
| JP 全数 | co.jp | 汎用 JP | ウェブ応答あり | ウェブ応答なし | gTLD 日本語サイト | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| MX あり | 88.5% | 96.8% | 84.1% | 90.9% | 65.2% | 34.3% |
| SPF あり | 82.6% | 91.6% | 77.7% | 85.6% | 53.2% | 36.8% |
| SPF が複数(RFC 違反) | 0.5% | 0.6% | 0.4% | 0.5% | 0.4% | 0.1% |
| DMARC あり | 34.9% | 41.8% | 31.3% | 35.7% | 27.2% | 12.1% |
| うち p=none | 29.0% | 35.5% | 25.6% | 29.8% | 21.6% | 7.5% |
| p=quarantine | 3.8% | 4.6% | 3.3% | 4.1% | 1.4% | 2.8% |
| p=reject | 2.1% | 1.6% | 2.4% | 1.9% | 4.1% | 1.7% |
| AAAA(IPv6)あり | 4.3% | 3.0% | 5.0% | 4.6% | 1.2% | 39.2% |
SPF は 82.6% と普及しているが、DMARC は 34.9% で、その大半は p=none(なりすましメールを受信側に拒否させない、監視のみの設定)である。MX を持つ名前のうち、SPF と quarantine / reject の DMARC がそろっているのは 6.0% にとどまる。2024 年以降、大手のメール事業者が大量送信者に DMARC を求めるようになったが、.jp の大半のドメインは「DMARC レコードはあるが何も拒否しない」か「DMARC が無い」状態にある。登録名に AAAA を持つ(IPv6 で到達できる)名前は 4.3% だった(図 13)。
図 13 メールの送信ドメイン認証(SPF・DMARC・MX)と AAAA の設定率

13. WordPress とプラグイン
WordPress と判定できたサイトは応答サイトの 33.0%(gTLD 日本語サイト 16.9%)。トップページの HTML(先頭 256KB)から /wp-content/plugins/<名前>/…?ver=x.y の参照を拾うと、本文を記録できた WordPress サイトの 83.2% でプラグインが見え、1 サイトあたり平均 2.87 個だった。最多は Contact Form 7(49.0%)で、WP-PageNavi(8.3%)、国産の VK All in One Expansion Unit(7.9%)、Smash Balloon Instagram Feed(7.1%)、Elementor(5.0%)が続く(図 17)。
図 17 トップページから参照される WordPress プラグイン(上位 20)

上位 20 のうち NVD に製品名(CPE)がある 14 個について、ver= の版を公開 CVE と照合した。範囲内の版を参照しているサイトは、本文を記録できた WordPress サイトの 21.9%(70,728 件)。ver= はスクリプトやスタイルの版で、多くはプラグインの版と同じだが一致しない場合もあり、これも上限値である。readme.txt の取得など追加のアクセスはしていない。
WordPress と PHP の組み合わせでは、WordPress サイトのうち PHP の版を名乗るものは 20.3%、そのうちサポート終了版は 47.8%(WordPress 以外 62.2%)。HSTS は WordPress で 7.4%、それ以外で 17.7%(図 18)。
図 18 WordPress サイトとそれ以外の PHP サポート状況とヘッダー

14. gTLD にある日本語サイトとの比較
.jp だけでは日本語のウェブを覆わない。比較標本として、筆者がレジストラ(スカイクリア株式会社、JPRS 指定事業者)として長年蓄積してきたドメイン評価データのうち、サイトの言語が日本語と判定済みの .com / .net / .org 131,622 件を同じ方法で観測した。過去に被リンクを持った名前の一覧で、判定時期が古いものを含むため、DNS が引けない名前が多い(到達率 28.9%)。対策実施率は DNS が引けて応答したサイト(38,092 件)で比べる。これは「日本語ウェブ全体」ではなく比較標本である(図 15)。
図 15 .jp と gTLD 日本語サイト(.com / .net / .org)の比較

応答した日本語 gTLD サイトは、WAF/CDN の前段が 44.8% と .jp(10.8%)の約 4 倍で、HSTS は 16.0%(.jp 14.3%)、PHP の版を名乗るサイトのサポート終了版は 38.0%(.jp 52.9%)だった。gTLD の日本語サイトは海外の CDN やホスティングに載ったものが多く、国内の共用レンタルサーバーに載る .jp とは置き場所の構成が違う。
解決した IP アドレスの登録国(RIR に登録された国。設置国と一致しないことがある)で見ると、CDN の前段を別枠にしたうえで、.jp の応答サイトの 77.0% が日本、10.8% が米国の IP だった(gTLD 日本語サイトは日本 8.0%、米国 25.9%、CDN 前段 44.8%)(図 16)。ホスティング事業者別の詳しい集計は、別稿(ホスティング会社レポート)で扱う。
図 16 日本語サイトの所在(IP の登録国別、CDN 前段は別枠)

15. 進捗と今後
台帳の網羅率は 63.0%(1,197,208 / 1,901,067)。本稿はこの時点の全件観測で、観測済みは 1,197,206 名前、うち応答 1,052,121 件(図 14)。台帳は CT ログの購読や候補生成で毎日増えており、網羅率 80% か 2027 年 1 月の早い方で 2 回目の観測を行い、最終報告とする。最終報告では WHOIS の全件取得による法人区分・地域の集計を加え、途中報告との差(母集団が広がって何が動いたか)を示す。
図 14 進捗(JPRS 公表数・台帳・観測・応答)

16. 限界と注意
- 母集団は台帳の委任ありの名前で、JPRS 公表数の 63.0%。台帳の名前の 8 割はウェブグラフ由来で、リンクされている名前に偏る。網羅できていない約 4 割には、ウェブを持たない名前が多いと考えられる。
- 到達率は観測元(国内回線)からの到達性で、地域制限やボット対策で応答しなかったサイトは失敗に含まれる。不達ホストの再試行は行っていない(
www.の補完 1 回のみ)。 - 403 を返したサイトも「到達」に含めた。403 の多くは中身の無いドメインへの既定応答で、ヘッダーは共用サーバーのものになる。
- CVE 露出は版表記に基づく上限値で、バックポート修正を反映できない。攻撃の成否は検証していない。
- NS 事業者別の値は「その事業者に DNS を預けている利用者のサイトの状態」で、事業者の評価ではない。
- 法人区分は WHOIS 取得が 37.0% の段階で、突合できた名前は 3.2% にとどまる。
- gTLD 日本語サイトは比較標本で、全数ではない。言語判定の時期が古く、現存しない名前を含む。
- メールの指標は DNS の設定の有無で、実際に送信元ドメイン認証が機能しているかは確かめていない。
- 個別のサイト名・ドメイン名は本稿では出さない。
17. 方法・免責・FAQ
Q. これは攻撃ではないのか。 いいえ。各ドメインに対して行ったのは、ブラウザでそのサイトを 1 回開くのと同じアクセスと、公開されている DNS 情報の照会だけである。ポートスキャンや脆弱性の探索、パスの推測は行っていない。観測の User-Agent ではサイトスカウター(sitescouter.net)を名乗っている。
Q. 「.jp のほぼ全体」をどうやって集めたのか。 JPRS はゾーンファイルを公開していないため、Common Crawl のウェブグラフ、証明書の透明性ログ(CT ログ)、自社のドメイン資産、辞書・地名・法人名からの候補生成で名前を集め、.jp の権威 DNS に 1 件ずつ委任の有無を確かめた。照会は JPRS の負荷にならない速度に抑えている。
Q. ランキング由来の調査と数値が違うのはなぜか。 母集団が違うためである。ランキングに載る名前はよく使われるサイトに偏り、対策も進んでいる。本稿は存在する名前のほぼ全体を相手にしているので、対策の実施率は低めに出る。改善・悪化ではない。
Q. 事業者別の数値は事業者の評価か。 いいえ。NS 事業者は DNS の預け先で、ウェブの置き場所とは限らない。ヘッダーや版表示は多くの場合、サイト利用者の設定で変わる。
Q. 自分のサイトを同じ方法で確認できるか。 できる。サイトスカウターのサーバー情報調査に URL を入れると、本調査と同じ非侵襲の方法で TLS・HSTS・ヘッダー・版露出を確認できる。
Q. 観測の対象から外してほしい。 サイトスカウターの問い合わせフォームから連絡してほしい。以後の観測から除外する。
筆者・連絡先
中澤祐樹(nkzw.jp)
- 公式サイト: nkzw.jp
- YouTube: @yknkzw
- Instagram: @nkzwyk
- LinkedIn: yukinakazawa
- X: @YukiNakazawa331
- Telegram: @yknkzw
2026.10.30 / written by 中澤祐樹
更新履歴
- 第1稿投稿 2026年10月30日 1時44分(記事コンテンツアップ)
- 第2稿更新 2026年10月30日 1時46分()

