3行まとめ
- 2015年7月、バンコクのチュラーロンコーン大学ニテート学部で、タイ初にして唯一の国内IGF「タイ・インターネットガバナンス国民フォーラム(#THIGF)」が開催されました。規制当局NBTCから市民団体まで16団体が共催しました。
- 軍政下という時代背景の中、刑法112条とコンピュータ犯罪法によるネット上の表現規制、ネット中立性、サイバーセキュリティ、憲法起草への市民参加まで、複数教室での並行セッションで議論されました。
- 国家・企業・市民が同席するタイ初のマルチステークホルダー実験でしたが、翌年以降は継続せず、公式サイトも休眠。国別IGFの持続の難しさを示す事例として記録に値します。
こんにちは、中澤です。この記事は Thailand IGF 2015 を、公式発表・議事録・現地報道にあたって整理した詳報です。忙しい方は上の3行まとめと図解だけでも骨子がつかめます。
大会の基本情報(公式発表より)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Thailand IGF 2015 |
| 会期 | 2015年7月(正確な開催日は一次資料で未確定) |
| 会場 | チュラーロンコーン大学コミュニケーション芸術(ニテート)学部 モンクット・サマティウォン館、バンコク |
| テーマ | 地域の共通課題 |
| 主催 | チュラーロンコーン大学ニテート学部と16団体の共催(NBTC・ETDA・NECTEC・THNIC財団・タイネティズン財団・iLaw・SEAPA・タイ障害者評議会ほか) |
(出典: 文末の出典一覧を参照)
ディスカッション・ダイジェスト(議事録より)
現地の議事録・セッション記録から、議論の核心部分を抜粋・翻訳してお届けします。
1. ネット上の表現の自由 — 刑法112条とコンピュータ犯罪法の二重処罰
取り上げたセッション: セッション「オンラインでの表現の状況」(408教室・13:15〜14:45)
- セッション告知は、不敬罪(刑法112条)の適用が2005年以降年平均109件に増え、2007年コンピュータ犯罪法の成立後は同法違反が112条に上乗せ起訴されて刑が重くなっている実態を提示した [1][2]
- 2014年クーデタ後の言論環境の悪化が前提として共有され、大学とメディア・法律系市民団体(iLaw・人権弁護士センター・SEAPA)が共催する場でこの主題を正面から扱ったこと自体が特筆される [1][2]
- 関連して、市民が2015年の憲法起草過程に参加する回路としてのオンライン空間を論じるセッション(409教室)も並行開催された [1][2]
2. ネット中立性 — 規制当局と通信3社が同じ壇上に
取り上げたセッション: セッション「オンライン消費者時代の『中立』の(必要)性」(313教室・10:45〜12:15)
「インターネットの中立性とは、高速道路が増えて便利になるようなものだ。高速道路には料金徴収が要る。車線を増やすなら追加の支払いが必要で、多く持つ者には払う用意がある。こうした費用負担が適切な形で成り立つことはできないのか(タイ語からの翻訳)」
— アナン・ラチャタムッタ(AIS) [3][1]
- NBTC(放送通信委員会)のスピンヤー・クラーンナロン委員が、米FCCが定めた3原則(合法コンテンツをブロックしない・アクセスを絞らない・特定アプリへの優先レーンを設けない)を紹介し、タイでは当局と業界の合意形成が必要と述べた [3][1]
- 国営TOTは「ブロッキングは違法サイト(コンピュータ犯罪法違反)以外行わない」と説明し、True Internetは帯域を圧迫するBitTorrent利用の管理実態(深夜帯に開放するトラフィック制御)を開示するなど、事業者側の運用が珍しく公の場で語られた [3][1]
- 「中立性」をめぐり消費者保護・事業者収益・規制の三者の緊張が正面から議論され、規制当局と競合3社が同席するタイ初の公開対話となった [3][1]
3. サイバー脅威と安全なネット利用 — ThaiCERTによる実演
取り上げたセッション: セッション「サイバー脅威の現状と安全なインターネット利用の実演」(410教室・15:15〜16:45)
- ETDA(電子取引開発機構)傘下ThaiCERTのアッタウィット・フン氏と、同機構のサイバー攻撃分析担当ポーンプロム・プラパーキッティクン氏が、SNS利用と電子取引の安全確保を実演付きで解説した [1][4]
- 経済・犯罪の両面に広がるサイバー脅威への「備え」を市民レベルに落とし込む啓発型セッションで、政府系機関が市民フォーラムに出向く形が取られた [1][4]
- 併設セッションではウェブ遮断の技術実演やオンライン賭博・有害コンテンツ対策も扱われ、規制の技術的実態を市民が検証する機会となった [1][4]
3分ショートトーク — よくある疑問に答えます
Q. そもそも何が決まった会議なの?
A. 何も決めない対話の場です。ただ軍政下のタイで、規制当局・通信会社・市民団体・大学が同じ教室に集まり、ネット検閲や中立性を公開で議論したこと自体が異例の出来事でした。
Q. 一番モメたテーマは?
A. ネット上の表現規制です。不敬罪とコンピュータ犯罪法の二重起訴で刑が重くなる実態が数字で示され、通信中立性のセッションでも「誰がネットの速さとお金を決めるのか」で当局と事業者の立場が分かれました。
Q. 自分に関係ある?
A. あります。タイのIGFはこの1回で途絶えました。多様な関係者の対話の場は、作るより続ける方が難しい——これは日本を含むどの国のインターネットガバナンスにも通じる教訓です。
Thailand IGF ってどんな会議?(はじめての方へ)
Thailand IGFは、地域・国レベルでインターネットガバナンスを議論するIGFイニシアティブのひとつです。
日本の私たちへの影響
この大会の議論は、数年内に日本のデジタル政策・プラットフォームのルール・AI規制に反映 されていきます。2015年大会で確認された方針は、あなたが毎日使うスマホ・SNS・AIサービスの「次のルール」の土台です。
出典・参考資料
- igf.in.th「igf2015」カテゴリ(セッション告知一覧・会場/時間/共催団体) — Thailand Internet Governance Forum(Wayback Machine 2021-01-20取得)(参照: 2026-07-11)
- igf.in.th セッションページ「インターネットガバナンスの仕組みはみんなのもの」 — Thailand Internet Governance Forum(Wayback Machine 2015-07-19取得)(参照: 2026-07-11)
- ニテート学部(チュラ大)がオンライン消費者時代のNet Neutrality討論を開催(タイ語) — Isranews Agency(2015-07-24付)(参照: 2026-07-11)
- 法律家、ポルノサイト遮断措置では犯罪問題は減らないと指摘(タイ語・THIGFセッション報道) — Isranews Agency(2015-08-02付)(参照: 2026-07-11)
- igf.in.th トップページ(「過去の活動」として掲載・共催16団体リスト) — Thailand Internet Governance Forum(Wayback Machine 2016-04-02取得)(参照: 2026-07-11)
※ 記事中の [数字] は出典番号を示します。
関連リンク
- IGF公式(リージョナル/ナショナル一覧): https://www.intgovforum.org/en/content/national-and-regional-igf-initiatives
- 日本IGF: https://japanigf.jp/
- 参考:中澤祐樹ブログ https://nkzw.jp/category/igf/
更新履歴
第1稿投稿 2026年7月20日 12時55分(記事コンテンツアップ)
— 中澤祐樹

