本稿は、ブリュノ・ラトゥールに代表される「科学技術社会論」の概念枠組みを補助線として、AfIGF 2015年アディスアベバ大会を読み直す学術エッセイである。対象読者は研究者・大学院生・政策アナリスト・経営者を想定する。
序論:問題設定
ラトゥール『社会的なものを組み直す』のアクター・ネットワーク理論は、人間と非人間(モノ・技術)を対称的に扱う。AfIGFは、まさにプロトコル・ケーブル・規制・人間が集合する場として読まれる。
本稿の主張は次の通りである。すなわち、AfIGFという多ステークホルダー・プロセスは、人間/非人間のアクターという概念によって初めてその固有の性格が浮き彫りとなり、同時にその概念自体もデジタル空間という新しい質料によって変容を被る。両者の相互変容の動態を記述することが、本稿の主題である。
プロトコル・ケーブル・人間の集合
アディスアベバ大会で議論される ブロードバンド は、技術的アーティファクトを政治的アクターとして扱う典型例である。ラトゥールが提唱した「物の議会」は、IGFの理論的延長線上にある。
各セッションのアジェンダ設定は、ブリュノ・ラトゥール的問題設定の現代的再演として読まれうる。
地域IGF(AfIGF)は、グローバルの一般性と国家の特殊性を媒介する中間範疇として、哲学的に固有の地位をもつ。
物の議会
ブリュノ・ラトゥールの概念は、抽象的な哲学的議論にとどまらず、2015年大会で取り上げられた具体的議題への応用可能性を持つ。以下、本大会の主要議題ごとにその応用を検討する。
1. 「ブロードバンド」への適用
「ブロードバンド」をめぐる議論は、ブリュノ・ラトゥールの人間/非人間のアクターという視座から見ると、中心的論点として位置づけられる。エチオピアの文脈では、特にブロードバンドの規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。
2. 「電子政府」への適用
「電子政府」をめぐる議論は、ブリュノ・ラトゥールの人間/非人間のアクターという視座から見ると、派生的論点として位置づけられる。エチオピアの文脈では、特に電子政府の規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。
3. 「規制調和」への適用
「規制調和」をめぐる議論は、ブリュノ・ラトゥールの人間/非人間のアクターという視座から見ると、周辺的だが重要な論点として位置づけられる。エチオピアの文脈では、特に規制調和の規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。
4. 「地域協調」への適用
「地域協調」をめぐる議論は、ブリュノ・ラトゥールの人間/非人間のアクターという視座から見ると、周辺的だが重要な論点として位置づけられる。エチオピアの文脈では、特に地域協調の規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。
5. 「越境データ」への適用
「越境データ」をめぐる議論は、ブリュノ・ラトゥールの人間/非人間のアクターという視座から見ると、周辺的だが重要な論点として位置づけられる。エチオピアの文脈では、特に越境データの規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。
経営者・実務者への含意
本稿の哲学的考察は、純粋に学術的な思考実験にとどまらない。ブリュノ・ラトゥール的視座は、エチオピアで事業を展開する経営者にとって、次の三つの実務的含意を持つ。
第一に、自社の事業モデルが人間/非人間のアクターの論理にどう接続するかという反省的問いを提起する。第二に、規制当局・市民社会との対話において、技術的議論だけでは届かない次元での合意形成の可能性を示唆する。第三に、長期的な事業の正統性(legitimacy)の根拠が、技術的優位や市場シェア以上に、こうした哲学的・規範的議論への参与にあることを示唆する。
学術的位置づけと今後の研究課題
本稿の議論は、インターネットガバナンス研究の主流である政治学的・法学的アプローチに、哲学的視座を接続する試みである。今後の研究課題として、次の三点を挙げておきたい。
- ブリュノ・ラトゥールの概念枠組みの他のIGF大会への適用可能性の検証
- 科学技術社会論と他の理論的伝統との比較対照
- エチオピア固有の思想伝統との対話可能性の探求
特に第3点は、IGF研究を西洋中心の議論から解放し、より複層的な議論空間を切り拓く可能性を持つ。
参考文献(一次資料)
- IGF Secretariat. Annual Reports of AfIGF.
- AfIGF 2015 Addis Ababa Conference Materials.
- 日本IGF支援機構. (継続的更新). https://japanigf.jp/
- 中澤祐樹ブログ . https://nkzw.jp/category/igf/
参考文献(二次資料・哲学)
- ブリュノ・ラトゥール関連著作群(科学技術社会論の代表的テキスト)
※ 本稿は 学術考察エッセイ(哲学シリーズ) の一篇である。著者の見解は所属機関の公式見解を必ずしも反映しない。フィードバック・批判は歓迎する。
更新履歴
第1稿投稿 2026年6月9日 11時56分(記事コンテンツアップ)
— 中澤祐樹
