スピノザの多数性から見た グローバルIGF 2020 オンライン大会 — 〈帝国〉に対する〈マルチチュード〉

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本稿は、バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)に代表される「17世紀合理主義・ネグリ」の概念枠組みを補助線として、グローバルIGF 2020年オンライン大会を読み直す学術エッセイである。対象読者は研究者・大学院生・政策アナリスト・経営者を想定する。

序論:問題設定

ネグリ&ハートが『〈帝国〉』『マルチチュード』で展開したスピノザ的政治哲学は、国家でも民衆でもない複数性の主体を構想する。Global IGFに集う多種多様な行為者は、このマルチチュード概念に照らして読みうる。

本稿の主張は次の通りである。すなわち、Global IGFという多ステークホルダー・プロセスは、〈帝国〉に対する〈マルチチュード〉という概念によって初めてその固有の性格が浮き彫りとなり、同時にその概念自体もデジタル空間という新しい質料によって変容を被る。両者の相互変容の動態を記述することが、本稿の主題である。

分析枠組み

ネットワーク的主体としてのマルチチュード

オンラインに集った参加者の差異は、統合よりも特異性(singularity)の保持として価値づけられる。オンラインの市民社会組織が他国の組織と接続する瞬間に、共有財(the common)の生産が始まる。

本大会のテーマ「人類の回復力と連帯のためのインターネット」は、上記の哲学的枠組みから読み直すと、単なる技術政策の標語以上の含意を持つ。それは、バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)が問題化した同種の問いを、デジタル時代の語彙で再定式化する試みとして位置づけられる。

グローバルIGFという形式は、国民国家の主権原理と、それを超えるグローバル公共領域の論理の間に立つ。

共有財(the common)の生産

バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)の概念は、抽象的な哲学的議論にとどまらず、2020年大会で取り上げられた具体的議題への応用可能性を持つ。以下、本大会の主要議題ごとにその応用を検討する。

1. 「COVID-19対応」への適用

「COVID-19対応」をめぐる議論は、バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)の〈帝国〉に対する〈マルチチュード〉という視座から見ると、中心的論点として位置づけられる。オンラインの文脈では、特にCOVID-19対応の規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。

2. 「オンライン教育」への適用

「オンライン教育」をめぐる議論は、バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)の〈帝国〉に対する〈マルチチュード〉という視座から見ると、派生的論点として位置づけられる。オンラインの文脈では、特にオンライン教育の規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。

3. 「リモートワーク」への適用

「リモートワーク」をめぐる議論は、バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)の〈帝国〉に対する〈マルチチュード〉という視座から見ると、周辺的だが重要な論点として位置づけられる。オンラインの文脈では、特にリモートワークの規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。

4. 「誤情報」への適用

「誤情報」をめぐる議論は、バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)の〈帝国〉に対する〈マルチチュード〉という視座から見ると、周辺的だが重要な論点として位置づけられる。オンラインの文脈では、特に誤情報の規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。

5. 「国連連携」への適用

「国連連携」をめぐる議論は、バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)の〈帝国〉に対する〈マルチチュード〉という視座から見ると、周辺的だが重要な論点として位置づけられる。オンラインの文脈では、特に国連連携の規制設計・社会実装・市民参加の三層が問題となる。

哲学的考察の構造

経営者・実務者への含意

本稿の哲学的考察は、純粋に学術的な思考実験にとどまらない。バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)的視座は、オンラインで事業を展開する経営者にとって、次の三つの実務的含意を持つ。

第一に、自社の事業モデルが〈帝国〉に対する〈マルチチュード〉の論理にどう接続するかという反省的問いを提起する。第二に、規制当局・市民社会との対話において、技術的議論だけでは届かない次元での合意形成の可能性を示唆する。第三に、長期的な事業の正統性(legitimacy)の根拠が、技術的優位や市場シェア以上に、こうした哲学的・規範的議論への参与にあることを示唆する。

学術的位置づけと今後の研究課題

本稿の議論は、インターネットガバナンス研究の主流である政治学的・法学的アプローチに、哲学的視座を接続する試みである。今後の研究課題として、次の三点を挙げておきたい。

  1. バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)の概念枠組みの他のIGF大会への適用可能性の検証
  2. 17世紀合理主義・ネグリと他の理論的伝統との比較対照
  3. オンライン固有の思想伝統との対話可能性の探求

特に第3点は、IGF研究を西洋中心の議論から解放し、より複層的な議論空間を切り拓く可能性を持つ。


参考文献(一次資料)

参考文献(二次資料・哲学)

  • バルーフ・デ・スピノザ(ネグリ&ハート経由)関連著作群(17世紀合理主義・ネグリの代表的テキスト)

※ 本稿は 学術考察エッセイ(哲学シリーズ) の一篇である。著者の見解は所属機関の公式見解を必ずしも反映しない。フィードバック・批判は歓迎する。

更新履歴

第1稿投稿 2026年6月7日 20時58分(記事コンテンツアップ)

— 中澤祐樹