3行まとめ
- 2023年11月15〜17日、第14回ウクライナIGF(IGF-UA 2023)が戦時下2度目の開催。キーウのアダマント社に設けた防護拠点と、参加者の大半が加わるビデオ会議のハイブリッド形式で、6セクションを討議した。
- 議題は「サイバーセキュリティと戦争」「強靱性」「戦時のI・国際組織との対話」「ネット空間の脱ロシア化・脱ソビエト化」。前線プロバイダの停電・砲撃下の運用実態や、CENTRによるロシアレジストリの資格停止などが報告された。*
- 空襲警報で中断しながらユース版も実施。戦時下でもマルチステークホルダー対話を制度として維持できることを示した大会であり、その運営様式自体が世界のIGFコミュニティへの報告事項となった。
こんにちは、中澤です。この記事は IGF-UA 2023(ウクライナIGF・第14回) を、公式発表・議事録・現地報道にあたって整理した詳報です。忙しい方は上の3行まとめと図解だけでも骨子がつかめます。
大会の基本情報(公式発表より)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | IGF-UA 2023(ウクライナIGF・第14回) |
| 回次 | 第14回 |
| 会期 | 2023-11-15 〜 2023-11-17 |
| 会場 | ハイブリッド(キーウのアダマント社敷地内に設けた防護拠点+ビデオ会議) |
| テーマ | 地域の共通課題 |
| 主催 | インターネット協会(InAU)、USPP科学IT委員会、NGO欧州メディア・プラットフォーム(スポンサー: RIPE NCC、Internet Society) |
(出典: 文末の出典一覧を参照)
ディスカッション・ダイジェスト(議事録より)
現地の議事録・セッション記録から、議論の核心部分を抜粋・翻訳してお届けします。
1. サイバーセキュリティと戦争 — サイバー外交とDNSブロッキングの内省
取り上げたセッション: セクション1「サイバーセキュリティと戦争」(モデレーター: Ivan Pietukhov、USPP科学IT委員会)
- 国際法のあらゆる規範を破るロシアが加わる国際プラットフォームでは関係構築自体が困難になっている、というサイバー外交の課題が指摘された [1]
- 情報空間防衛のために国家がDNSゾーンや個別リソースのブロッキングという「疑わしい手法」を用いているとして、「侵略国の手法を模倣すべきでない」と、審議中の法案8087を含めて批判。安定した民主主義国の経験に学び、体系的かつ透明に行うべきとされた [1]
- 科学コミュニティからは、重要インフラを含むシステムのサイバー防御水準を高める非対称シナリオを生成AIで高速生成する応用例が示された [1]
2. 強靱性 — 停電・砲撃・人材動員の下でネットを維持する
取り上げたセッション: セクション4「強靱性(Стійкість)」(モデレーター: Olena Kushnir、InAU)
- 前線地帯のプロバイダと基幹回線事業者の窮状が報告された: ブラックアウト、大量の無停電電源装置の調達、激化するミサイル攻撃、従業員の徴兵留保(бронювання)の問題、夜間外出禁止令下での復旧班の通行許可、増え続けるサイバー攻撃 [1]
- 加入者流出と維持費増大に苦しむ前線地帯プロバイダへの補助金の検討と、ネットワークの持続性確保への政府のより強い関与が提案された [1]
- RIPE NCCとの連携による「IPアドレス移転の自主的凍結」ポリシーが説明され、高価値化したIPリソースを混乱期の流出から守る仕組みが共有された [1]
3. 戦時のI*・国際組織との対話 — 支援と失望のあいだ
取り上げたセッション: セクション5「戦時下のウクライナとI*・国際組織の対話」(モデレーター: Oksana Prykhodko、欧州メディア・プラットフォーム)
- 「全面侵攻後、すべてのI*・国際組織はウクライナを支援したが、侵略国を非難した組織ばかりではない」との総括が示された。欧州ccTLD団体CENTRはロシアの.ru調整センターの会員資格を停止した一方、ICANNなどでは定款に反してでも侵略国代表が管理職に就くケースがあると指摘された [1]
- ウクライナのコミュニティと最も相互理解が深いのはRIPE NCCだと評価され、グローバル・デジタル・コンパクト(GDC)やWSIS+20レビューへのウクライナのステークホルダーの積極参加が呼びかけられた [1]
4. ネット空間の脱ロシア化・脱ソビエト化 — 言語とドメインの主権
取り上げたセッション: セクション6「インターネット空間における脱ロシア化と脱ソビエト化」(モデレーター: Svitlana Tkachenko、Hostmaster)
- 国家語保護コミッショナー事務局の代表が、SNSとYouTubeでウクライナ語使用が着実に強まっているとするコンテンツ分析センターの調査を提示。教育オンブズマンは良質なウクライナ語コンテンツの拡充を課題に挙げた [1]
- ドメイン名などインターネット識別子に残るロシア語名の置き換えが「脱ロシア化のもう一つの側面」として扱われ、ウクライナ語ドメイン普及運動の発起人が経験を共有。国家語のオンライン使用拡大で先行するラトビアの国際経験も参照された [1]
- 結論として、識別子とコンテンツ双方での国家語使用は国・企業・市民団体の体系的で丁寧な取り組みを要する、と合意された [1]
5. 戦後復興とイノベーション — 数字で示された人材流出
取り上げたセッション: セクション3「ウクライナの戦後復興のためのイノベーション発展」(モデレーター: Andrii Pazyuk)
- 知識経済指数でウクライナは63位(2022年)と、2012年の56位から後退。教育は21位から58位へ、イノベーションは59位から63位へ下がる一方、ICT分野の振興策により同分野は77位から56位へ改善したと報告された [1][4]
- 2022年に最大800万人(大半が女性と子ども)が国外へ避難し、2030年には人口3,000万人になるとの推計が示され、大学・職業学校の「志願者枯渇」が警告された [1][4]
- 国家知財機関UKRNOIVIを基盤とする「国家IP・イノベーションハブ」の創設や、ウクライナ・クラスター同盟の「インダストリー5.0移行マニフェスト」が紹介され、イノベーションを復興の駆動力とする方針が確認された [1][4]
3分ショートトーク — よくある疑問に答えます
Q. 戦時下2年目、どうやって開いたの?
A. 参加者の大半はビデオ会議、運営チームだけがキーウのアダマント社に作られた防護拠点(電源・シェルター完備の「不屈の拠点」)からオフライン参加するハイブリッド形式です。ウクライナ語と英語の自動翻訳字幕も初導入されました。
Q. 一番生々しい報告は?
A. 前線地帯のプロバイダの実態です。停電、ミサイル攻撃、技術者の徴兵、夜間外出禁止令下の復旧作業。それでもネットを止めない現場の工夫と、補助金などの支援策が議論されました。
Q. 日本に関係ある?
A. あります。災害・有事における通信の継続性は日本の重要課題ですし、CENTRやICANNをめぐる議論は「技術コミュニティは戦争にどう向き合うべきか」という世界共通の問いを投げかけています。
Ukraine IGF ってどんな会議?(はじめての方へ)
Ukraine IGFは、地域・国レベルでインターネットガバナンスを議論するIGFイニシアティブのひとつです。
日本の私たちへの影響
この大会の議論は、数年内に日本のデジタル政策・プラットフォームのルール・AI規制に反映 されていきます。2023年大会で確認された方針は、あなたが毎日使うスマホ・SNS・AIサービスの「次のルール」の土台です。
出典・参考資料
- Ukrainian IGF-UA 2023 Annual Report(XIV Український форум 公式年次報告書・英語DOCX) — IGF-UA組織委員会(参照: 2026-07-17)
- IGF-UA 2023 公式アーカイブサイト(14-й Український форум з управління Інтернетом IGF-UA 2023、11月15-17日・キーウ) — IGF-UA組織委員会(参照: 2026-07-17)
- VI Український молодіжний форум з управління Інтернетом Youth IGF-UA(第6回ユース版の中継動画) — I-UA.tv(メディアパートナー)(参照: 2026-07-17)
- XIV Український форум з управління інтернетом (IGF-UA)(国家知財機関NIPOの参加報告: 国家IP&イノベーションハブの発表) — ウクライナ国家知的財産機関(NIPO)(参照: 2026-07-17)
- IGF-UA 公式報告書一覧(Річний звіт IGF-UA 2023の配布ページ) — IGF-UA組織委員会(参照: 2026-07-17)
※ 記事中の [数字] は出典番号を示します。
関連リンク
- IGF公式(リージョナル/ナショナル一覧): https://www.intgovforum.org/en/content/national-and-regional-igf-initiatives
- 日本IGF: https://japanigf.jp/
- 参考:中澤祐樹ブログ https://nkzw.jp/category/igf/
更新履歴
第1稿投稿 2026年7月14日 18時02分(記事コンテンツアップ)
— 中澤祐樹

