3行まとめ
- 2023年10月2日、サラエボのNovotel Bristolで、5年間の休止を経てボスニア・ヘルツェゴビナIGFが再開しました。調査報道機関BIRN BiH主導の新体制による第4回大会です。
- 「数カ月で1,500万件のサイバー攻撃試行」「CERT(コンピュータ緊急対応チーム)の不在」といった深刻な現状に加え、ジェノサイド否認やヘイトの拡散への対処が議論され、提言は国連IGF京都大会へ届けられました。
- 西バルカンで「最もサイバー攻撃への備えが弱い国」が、市民社会の手でガバナンス対話を立て直した事例です。休止した国内IGFの再起動モデルとしても注目に値します。
こんにちは、中澤です。この記事は BHIGF 2023(ボスニア・ヘルツェゴビナIGF) を、公式発表・議事録・現地報道にあたって整理した詳報です。忙しい方は上の3行まとめと図解だけでも骨子がつかめます。
大会の基本情報(公式発表より)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | BHIGF 2023(ボスニア・ヘルツェゴビナIGF) |
| 回次 | 第4回(2017年から公式自認の「5年間の休止(pet godina pauze)」を経た再開回。主催体制はOne World Platform主導からBIRN主導へ交代し、コーディネーターのアイダ・マフムトヴィッチ氏〔BIRN〕が初回から継続関与) |
| 会期 | 2023-10-02(09:30〜14:00、対面+オンラインのハイブリッド) |
| 会場 | Novotel Bristol Sarajevo(サラエボ、Fra Filipa Lastrića通り) |
| テーマ | 地域の共通課題 |
| 協力・後援 | ISOC Foundation・在BiH英国大使館・ハンス・ザイデル財団 |
| 主催 | 運営委員会: BIRN BiH(バルカン調査報道ネットワーク)・BiHサイバーセキュリティ・エクセレンス・センター(CSEC)・BHNIX.ba・連邦裁判官・検察官教育センター(CEST FBiH)・サラエボ大学政治学部・Logosoft |
| 成果文書 | フォーラムの結論と提言は国連IGF京都大会(IGF 2023)へ提出 |
(出典: 文末の出典一覧を参照)
ディスカッション・ダイジェスト(議事録より)
現地の議事録・セッション記録から、議論の核心部分を抜粋・翻訳してお届けします。
1. CERT不在のサイバーセキュリティ — 「1,500万件の攻撃試行」への警鐘
取り上げたセッション: サイバーセキュリティセッション(CSECの新たな脅威レポートの発表を含む)
「その証左の一つが、この数カ月間にBiHで試みられた1,500万件のサイバー攻撃です」
— ジュリアン・ライリー(駐ボスニア・ヘルツェゴビナ英国大使) [2][1]
「CERTを持たないというのは、外務省を持たないようなものです」
— アルベン・ムルテジッチ(連邦裁判官・検察官教育センター長) [2][1]
- BiHは西バルカンで最もサイバー攻撃への備えが弱く、国レベルのCERT(コンピュータ緊急対応チーム)も戦略・法制度も未整備であることが繰り返し指摘された [2][1]
- 複雑な国家機構がCERT設立を阻み、公務員給与ではIT専門人材を確保できないという構造問題も提起された [2][1]
2. ジェノサイド否認とオンラインのヘイト — 戦後社会のネット空間
取り上げたセッション: オンライン上の人権・表現関連セッション
- ジェノサイド否認、戦争犯罪の美化、歴史修正主義、ヘイトスピーチのオンライン拡散という、ボスニアならではの深刻な課題が正面から議論された [2]
- LGBTIQ+活動家のレイラ・フレモヴィッチ氏らが登壇し、ICTを介した女性や周縁化された集団への暴力も議題となった [2]
- 提言には、修正主義やジェノサイド否認に対応するメディア規制、被害者中心のオンライン暴力への司法対応、多面的な市民教育が盛り込まれた [2]
3. 「ほぼ未規制」のサイバー空間 — 国連からの警鐘と人権
取り上げたセッション: 開会・人権セッション(国連関係者の登壇・ビデオ参加を含む)
「サイバー空間は依然としてほぼ規制されないままであり、それは問題です」
— イングリッド・マクドナルド(国連ボスニア・ヘルツェゴビナ常駐調整官) [2][4]
- 国連グローバル・コミュニケーション担当事務次長のメリッサ・フレミング氏がビデオメッセージを寄せ、表現の自由に関する国連特別報告者のアイリーン・カーン氏も登壇者に名を連ねた [2][4]
- 偽情報・誤情報とヘイトの組み合わせが人権と民主的プロセスへの脅威になっているとの認識が共有され、体系的なインターネットガバナンスの欠如が根本課題とされた [2][4]
4. 5年ぶりの再開 — BIRN主導の新体制と京都への接続
取り上げたセッション: フォーラム全体・閉会
- 公式サイトは「2015・2016・2017年の開催後、5年間の休止(pet godina pauze)を経ての再開」と明記。主催は市民団体One World Platform主導から、調査報道機関BIRN BiHとサイバーセキュリティ・司法・技術系機関の連合体へと交代した [3][1][2]
- 事前登録者が8つの候補から優先議題2つを投票で選ぶ参加型の設計が導入された [3][1][2]
- フォーラムの結論は、同月開催の国連IGF京都大会(IGF 2023)に提出され、国内対話と世界のプロセスが再び接続された [3][1][2]
3分ショートトーク — よくある疑問に答えます
Q. どんな会議だったの?
A. 5年間止まっていたボスニア・ヘルツェゴビナの国内IGFが、サラエボのホテルで再開した会議です。調査報道機関BIRNなどが新たに運営を担い、サイバーセキュリティとオンライン上の人権を半日で集中的に議論しました。
Q. 一番深刻な話は?
A. 国レベルのCERT(サイバー攻撃への緊急対応チーム)がまだ無いことです。「数カ月で1,500万件の攻撃試行」という数字が示され、「CERTがないのは外務省がないようなもの」という登壇者の言葉が現状を象徴しました。
Q. 日本に関係ある?
A. この大会の提言は、京都で開かれた国連IGF 2023に届けられました。日本が議長国を務めた世界会合の足元で、こうした各国の国内対話が積み上がっていたことを知ると、IGFの全体像が立体的に見えてきます。
Bosnia IGF ってどんな会議?(はじめての方へ)
Bosnia IGFは、地域・国レベルでインターネットガバナンスを議論するIGFイニシアティブのひとつです。
日本の私たちへの影響
この大会の議論は、数年内に日本のデジタル政策・プラットフォームのルール・AI規制に反映 されていきます。2023年大会で確認された方針は、あなたが毎日使うスマホ・SNS・AIサービスの「次のルール」の土台です。
出典・参考資料
- Event BH IGF 2023(公式イベントページ: 日時・会場・運営委員会・登壇者・開催史) — BH IGF(bhigf.ba)(参照: 2026-07-11)
- Forum za upravljanje internetom istakao zabrinjavajuće trendove, ali i preporuke za poboljšanje cyber prostora u BiH(開催報道・発言引用) — Detektor(BIRN BiH)(参照: 2026-07-11)
- Forum za upravljanje internetom ponovo u BiH(再開告知: 5年ぶりの開催・優先議題の参加者投票) — Detektor(BIRN BiH)(参照: 2026-07-11)
- Bosnia and Herzegovina IGF(NRI Meeting記録: "hosted online and onsite in Sarajevo on 2 October 2023") — 国連IGF事務局(参照: 2026-07-11)
- Eastern European Regional Group — NRI records(コーディネーター: Aida Mahmutovic・年次報告リンク) — 国連IGF事務局(参照: 2026-07-11)
※ 記事中の [数字] は出典番号を示します。
関連リンク
- IGF公式(リージョナル/ナショナル一覧): https://www.intgovforum.org/en/content/national-and-regional-igf-initiatives
- 日本IGF: https://japanigf.jp/
- 参考:中澤祐樹ブログ https://nkzw.jp/category/igf/
更新履歴
第1稿投稿 2026年7月12日 9時55分(記事コンテンツアップ)
— 中澤祐樹

