AprIGF(アジア太平洋地域IGF) 2025 カトマンズ大会 詳報 — 議事録ダイジェストと3行まとめ

AprIGF 2025 カトマンズ — サムネイル

3行まとめ

AprIGF 2025 カトマンズ — 3行まとめ

  1. アジア太平洋地域IGF(APrIGF 2025)は2025年10月11〜14日に開催。当初ネパール・カトマンズでのハイブリッド開催予定だったが、9月の騒乱を受け完全オンラインに移行し、「マルチステークホルダー・デジタルガバナンスの未来」を議論した。
  2. WSIS+20見直しの年にあたり、IGFの恒久的マンデート化支持など地域の意見書を国連へ提出。障害者・ジェンダー・若者の包摂、「公共財としてのAI」、デジタル公共インフラ、災害レジリエンスを5トラックで討議した。
  3. SNS遮断が引き金の一つとなったネパールのGen Z抗議は、インターネットガバナンスの議論が机上の空論でないことを突きつけた。WSIS+20の帰結はIGFという場そのものの存続と、日本を含む各国のデジタル政策の前提を左右します。

こんにちは、中澤です。この記事は AprIGF(アジア太平洋地域IGF) 2025年 カトマンズ大会 を、公式発表・議事録・現地報道にあたって整理した詳報です。忙しい方は上の3行まとめと図解だけでも骨子がつかめます。

📍 カタログ上はカトマンズ大会だが、2025年9月のネパール騒乱(9月8〜10日のGen Z抗議。SNS一斉遮断が引き金の一つとなり政権が退陣)を受け、9月17日に参加者の安全確保を理由として完全バーチャル開催への移行が発表された。ホストはカトマンズのInternet Governance Instituteのまま実施

大会の基本情報(公式発表より)

AprIGF 2025 カトマンズ — 大会 基本情報

項目 内容
会期 2025-10-11 〜 2025-10-14(10月11日は「ゼロデー」プログラム)
会場 完全オンライン開催(当初はカトマンズ近郊ジャワラケルのネパール行政職員大学でのハイブリッド開催を予定)
テーマ アジア太平洋におけるマルチステークホルダー・デジタルガバナンスの未来
主催 Internet Governance Institute(IGI、ネパール)。共催はISOCネパール支部、実施はAPrIGFマルチステークホルダー運営グループ(MSG)と事務局
成果文書 シンセシス・ドキュメント(Virtual Conference版)。WSIS+20見直しへの地域意見書を国連共同ファシリテーターに提出
特記 WSIS(世界情報社会サミット、2003年ジュネーブ)から20年、WSIS+20見直しの年に開催

(出典: 文末の出典一覧を参照)

ディスカッション・ダイジェスト(議事録より)

AprIGF 2025 カトマンズ — 議論の見取り図

現地の議事録・セッション記録から、議論の核心部分を抜粋・翻訳してお届けします。

1. ネパール騒乱と全面オンライン化 — SNS遮断が示したガバナンスの重み

取り上げたセッション: 開催形式変更の発表(2025年9月17日、MSGリーダーシップ・現地ホスト・事務局の共同決定)

  • 2025年9月8〜10日、SNS一斉遮断への反発を一つの引き金とするGen Z抗議がネパール全土に拡大し、政権退陣に至った。主催者は延期案も検討のうえ、参加者の安全を最優先に完全バーチャル開催への移行を決定 [2][5]
  • 発表文は「被害を受けたネパールのコミュニティと家族に心からの哀悼」を表明し、平和と安定の早期回復への希望を述べた [2][5]
  • インターネットの遮断が社会を揺るがした国で予定されていたインターネットガバナンス会議自体が、その余波でオンライン開催となった——地域の議題(遮断・プラットフォーム規制・若者参加)を体現する事態となった [2][5]

2. WSIS+20 — IGFの存続をかけた見直しに地域の声を届ける

取り上げたセッション: WSIS+20特別トラック(ハイレベルプレナリー・タウンホールに国連共同ファシリテーターが出席、事前後3回のウェビナー)

「中澤はいま国連WSIS+20見直しのさなかにいます。世界のコミュニティがこれまでの歩みを評価し、デジタル社会の次の10年の針路を描く、極めて重要な節目です」
Sally Wentworth(インターネットソサエティ会長兼CEO、基調講演) [1][4]

  • WSIS+20作業部会を設置し、ゼロドラフトとRevision 1への評価を含む意見書を国連共同ファシリテーターへ提出。IGFの恒久的マンデート化と国・地域・ユースIGF(NRIs)の承認への支持を表明 [1][4]
  • Revision 1ではデジタル格差解消の資金メカニズムやNETmundial+10ガイドラインの追加を歓迎する一方、人権と環境に関する文言の後退に懸念を表明 [1][4]
  • AIガバナンスの国際貿易・人権・労働への影響について、WSIS+20で行動指向の成果を出すよう要請した [1][4]

3. 「私たち抜きに中澤のことを決めるな」 — 障害者・ジェンダー・若者の包摂

取り上げたセッション: アクセスと包摂トラック「Nothing About Us Without Us」「Prioritising Digital Gender Inclusion in Asia」「Bridging the Digital Divide: Youth Access to Knowledge, Policy, and Power」ほか

  • 障害者は支援の対象ではなく政策とインフラの「共同設計者」であるべきと強調。開催国ネパールにはマラケシュ条約の批准と、電子政府委員会への障害者(特に障害のある女性)の参加が名指しで要請された [1]
  • 女性が「意味のある接続」から排除されることで、中所得国は2023年に計約5億ドルの経済損失を被ったとの研究が紹介され、パキスタンのデジタル・ジェンダー包摂戦略の実装課題などが議論された [1]
  • 若者を「共同統治者(co-governors)」と位置づけ、チェックボックス型の形式的参加からの脱却、意思決定の場での正式な議席と若者主導プロジェクトへの予算確保が求められた [1]

4. AIは公共財になれるか — 南アジアの現場からの問い

取り上げたセッション: 「AI as Public Good: Analysing the interplay of Private Investments, Public Infrastructure and Public Accountability」ほか

  • インドがAIエコシステムに11.2億ドルを投じる一方、ネパールにはAI専用予算がなく民間主導という域内格差が示され、予算と成果評価の透明性欠如が共通課題とされた [1]
  • インドのスマートシティで清掃労働者がRFIDタグで移動・会話まで記録され、データを第三者企業が所有する事例や、フィリピンでコロナ禍のQRコード収集データが政府の承認なくマーケティング業者へ転売された事例など、公共AIの説明責任の欠如が具体的に報告された [1]
  • 「包摂的なAIシステムを設計してから自動化せよ。逆の順序では『排除を自動化』することになる」との原則が共有され、非西洋の倫理思想も取り込んだ地域文脈でのAI規範づくりが提唱された [1]

5. 災害・遮断・規制の行き過ぎ — 三方向から問われたレジリエンス

取り上げたセッション: レジリエンストラック「Disasters, Data, and Digital Rights」「The Growing Threat of Personal Liability in Platform Regulation」ほか

  • 気候災害が激甚化するアジア太平洋では接続性が危機対応の生命線。ファイバー・マイクロ波・衛星を組み合わせたハイブリッド構成と単一障害点の排除、インターネットの「重要インフラ」指定が提言された [1]
  • バングラデシュのPROTIC IIが共同設計したオフライン音声通信基盤「PAROLI」など、停電・不通時にも警報や安否確認ができるコミュニティ主導ツールが紹介された [1]
  • Telegram創業者の逮捕やブラジルでのX(旧Twitter)停止を例に、プラットフォーム幹部個人への刑事責任追及という規制手法が、法の支配の弱い国では現地担当者への脅迫や監視の口実になり得ると警鐘が鳴らされた [1]

3分ショートトーク — よくある疑問に答えます

Q. そもそも何が決まった会議なの?

A. 何かを決める場ではなく、アジア太平洋の政府・企業・市民社会が対等に話す地域版IGFです。ただし今回は特別で、国連のWSIS+20見直しに合わせて「IGFを恒久化してほしい」という地域の意見書を、国連の共同ファシリテーターに直接提出しました。

Q. カトマンズ開催のはずが、なぜオンラインに?

A. 開催1カ月前の2025年9月、SNS遮断への反発も引き金となった大規模抗議(Gen Z抗議)がネパールで起き、政権が退陣する事態になったためです。主催者は安全を最優先し完全オンラインに切り替えました。「ネットの遮断」を議論するはずの会議が、遮断が招いた混乱で現地開催できなくなった——象徴的な出来事でした。

Q. 自分に関係ある?

A. あります。この年のWSIS+20見直しはIGFという対話の場が今後も続くかを決める節目で、ここでの合意は日本のデジタル政策の前提になります。SNS遮断が社会を揺るがしたネパールの経験は、プラットフォーム規制を議論するどの国にとっても教訓です。

AprIGF(アジア太平洋地域IGF) ってどんな会議?(はじめての方へ)

AprIGF 2025 カトマンズ — AprIGF(アジア太平洋地域IGF)の位置づけ

AprIGF(アジア太平洋地域IGF)は、地域・国レベルでインターネットガバナンスを議論するIGFイニシアティブのひとつです。

日本の私たちへの影響

この大会の議論は、数年内に日本のデジタル政策・プラットフォームのルール・AI規制に反映 されていきます。2025年大会で確認された方針は、あなたが毎日使うスマホ・SNS・AIサービスの「次のルール」の土台です。

出典・参考資料

  1. Synthesis Document — Asia Pacific Regional Internet Governance Forum 2025 (Virtual Conference) (PDF) — APrIGF事務局 (APrIGF Secretariat)(参照: 2026-07-10)
  2. APrIGF 2025 Will Be Held Virtually — APrIGF.Asia(公式サイト)(参照: 2026-07-10)
  3. OFFICIAL: APrIGF 2025 will be held in Nepal in October! — APrIGF.Asia(公式サイト)(参照: 2026-07-10)
  4. The Future of Multistakeholder Digital Governance in Asia-Pacific(Sally Wentworth基調講演) — Internet Society(参照: 2026-07-10)
  5. 2025 Nepalese Gen Z protests — Wikipedia (en)(参照: 2026-07-10)
  6. Asia Pacific Regional Internet Governance Forum (APrIGF) 2025 — Association for Progressive Communications (APC)(参照: 2026-07-10)

※ 記事中の [数字] は出典番号を示します。


関連リンク

更新履歴

第1稿投稿 2025年10月11日 12:15(記事コンテンツアップ)

第2稿更新 2026年7月10日 14:28(詳報版へ全面改稿:3行まとめ・議事録ダイジェスト・3分ショートトーク・出典一覧・図解を追加(引用は出典実在のもののみ収録))

— 中澤祐樹