使えたのは3日間だけ。AnthropicのAIが止まるまでに何があったのか、そして私たちへの影響

私も使っていた「Mythos」が、ある日突然消えた

私はドメインやサーバーの仕事がら、新しいAIツールはこまめにチェックしています。コード修正が得意な「Claude Mythos」と、その一般公開版「Claude Fable 5」も、実際に3回ほど使ったことがありました。公開からわずか3日ほどで使えなくなってしまったので、触れた人自体がまだ少ないかもしれません。

ところが2026年6月12日(金)の夜、Anthropic(クロードを作っている会社)はこの2つのAIへのアクセスを突然全停止しました。理由はひと言でいうと、アメリカ政府から「外国籍の人には使わせないでください」という指示が来たから。AI業界では前例のない措置です。

ただ、誰が外国籍かをAIが自動で判別する仕組みはありません。自社の外国籍社員も含めて細かく選別するのが難しいため、Anthropicは「全員いったん止める」という対応を選びました。

この記事では、何が起きたのかを順番に整理しつつ、SEO・Webの仕事に長く携わってきた目線から、私たちにどう関係するかを書いてみます。


何が起きたのか──時系列で整理

公開からわずか3日で全停止に至るまでの流れ

日時(米東部時間) 出来事
6月9日 Fable 5・Mythos 5を公開。性能の高さで話題に
6月11日夜〜12日朝 報道によると、AmazonがFable 5の安全装置をすり抜けられることを発見し、政府関係者に懸念を伝えたとされる
6月12日 午後1時頃 政府がAnthropicに短時間での停止を要求(90分という報道もあり)
6月12日 午後5時21分 Anthropicの公式発表によると、商務省(※アメリカの経済・産業を管轄する省庁)からの正式な指示を受領
6月12日 午後10時頃 Fable 5が実際に使えなくなる
6月13日 Anthropicが声明を発表。大統領顧問のサックス氏もSNSで経緯を説明

政府からの指示は「外国籍の人(社員含む)にはアクセスさせないでください」というもので、具体的な理由の説明はなかったとAnthropicは述べています。

中国・ロシアなど特定の国を名指しするのではなく「外国籍かどうか」というくくりだったため、細かく選別する方法がなく、結果として全停止になった、という流れです。


騒動のきっかけは「Fix this code.」のたった3語

Fable 5とMythos 5はもともと同じAIで、違うのはブレーキのかかり具合だけ。Fable 5は危険な内容には答えないよう制限を設けた一般向けバージョン、Mythos 5はその制限を一部外した、限られた組織だけが使える上位バージョンです。

今回のきっかけになったのは、Amazonの研究者が見つけた「ジェイルブレイク(AIの安全装置をすり抜けるテクニック)」でした。あるプログラムのコードを読み込ませて「このバグを直して」と頼むだけで、ブレーキが効かなくなってしまった、というもの。報道では、これが「Fix this code.」という3語だけで成立した、と伝えられています。

これに対しAnthropicは強く反論しています。

  • 今回の抜け穴から引き出せるのは「害のない答え」か「Mythosだけの特別な能力とは無関係な情報」にすぎない
  • 同レベルのことはOpenAIのGPT-5.5など他のAIでも特別な工夫なしにできる
  • セキュリティの専門家がふだん使っている知識の範囲内

つまりAnthropicの言い分は「新しい弱点ではなく、すでに知られている話の再発見」ということです。

一方、大統領顧問のサックス氏は「AnthropicのCEOはこの問題を深刻ではないとして修正を断った」と主張しており、両者の言い分は正面からすれ違っています。

複数の報道では「政府側は中国がMythosにアクセスすることを懸念していたのでは」という見方も出ています。中国が使えれば安全保障上のリスクになりますし、「蒸留(既存のAIの出力をもとに似たAIを作る手法)」でコピーされる恐れもある、と報じられています。ただ、これは報道ベースの推測であり、政府もAnthropicも公式には認めていない点は補足しておきます。


なぜ「報告ひとつ」でサービス全体が止まるのか

なぜFable5・Mythos5は停止されたのか?

今回の一件は、単なる認識のズレで終わらない、もう少し大きな問題も浮き上がらせています。

ルールの決め方が、ざっくりしすぎた。
通常こうした規制は「この国はダメ」「この技術はダメ」と対象を細かく指定します。ところが今回は「外国籍かどうか」という大きなくくりだったため、細かく選別できず「全部止める」しかなくなりました。

見つけた側と作った側で、「ヤバさ」の感じ方が違った。
Amazonは「安全装置を破られた=大変なこと」と捉え、Anthropicは「他のAIでも同じことができる、すでに知られている話」と捉えていたようです。そのズレが解消される前に、政府が止めるよう求めてしまったのが問題でした。

ビジネス上の関係者が政府に直接動いた。
Amazonは、自社のクラウドサービス「Bedrock」でFable 5を提供していた協力相手でもあります。その会社が政府関係者に直接懸念を伝えた、というのも今回の特徴的な点です。

Anthropicにとって、最悪のタイミングだった。
今回の騒動は、AnthropicがちょうどIPO(株式上場)に向けた書類を提出していた時期と重なっていました。年間売上ペース470億ドル、企業価値9650億ドルと報じられる規模の上場準備のさ中です。さらに国防総省とも別の問題でもめていたと報じられており、もともとギクシャクした時期に新たな火種がついた格好でした。


SEO・Web実務者として感じること

20年近くドメイン・サーバーの仕事をしてきた立場で気になるのは、「使っていたサービスが、こちらの都合とは関係なくある日突然止まるリスク」です。

ドメインやサーバーの世界でも、ICANNのルール変更や各国の法律改正で突然サービスの条件が変わることは珍しくありません。それが今回、検索やコンテンツ作り・コード生成など、仕事のあちこちに組み込まれているAIという土台で起きた、というのが新しい点です。

今回の件から、実務者として押さえておきたいことを3点まとめます。

一つのAIに頼り切るのは、地味にリスクがある。
性能が高くて話題になるAIほど、規制や安保の議論に巻き込まれやすいのが現実です。一つのサービスにコンテンツ作りや開発フローをどっぷり依存させていると、こういうとき仕事そのものが止まります。Fable 5を使い込んでいた人たちは、まさにそれを経験しました。

「性能が高い=安全に使い続けられる」ではない。
むしろ性能が高くて注目されるほど、規制や競合他社からの目が集まります。ツールを選ぶときは、機能の魅力だけでなく「急に使えなくなったとき、何を代わりに使うか」を頭に入れておくといいでしょう。

AI会社の「説明する姿勢」も、選ぶ基準のひとつになる。
Anthropicは今回、自社の見解を詳しく公開し、公開前の安全性チェックの内容も説明していました。それでも止められてしまった事実は、いくら事前検証を尽くしても政治的な判断ひとつでサービスが止まりうる、というAI特有のリスクを示しています。開発元がどれだけ透明に説明してくれる会社かも、ツール選びの判断材料になっていきそうです。


まとめ

  • Amazonが見つけた安全装置のすり抜けを政府関係者に伝えたことが発端で、短時間のうちに全ユーザー向けアクセスが停止された(複数の報道より)
  • 規制が「外国籍かどうか」というくくりだったため選別できず、Anthropicは全停止を選んだ
  • 「これは重大な問題か、既知の話か」という評価がすれ違ったまま止められてしまい、IPO準備中・政府とのもめごと中というタイミングも重なった
  • 性能が高いAIほど規制リスクも高い。使うツールの「もしものとき」を考えておくのが、実務者として大事な視点だと感じています

性能が高くて話題になるAIほど、国の安全に関わる議論に巻き込まれやすい──これは今後も繰り返されそうなテーマです。便利なツールを使いこなすことと同時に、「突然使えなくなっても仕事が止まらない備え」を意識しておきたいですね。


参考にしたニュース・公式発表

※この記事は2026年6月17日時点の報道をもとにまとめています。Anthropic公式発表に基づく部分と報道ベースの推測が含まれる部分は、できるだけ区別して書きました。今後状況が変わる可能性があります。

更新履歴

第1稿 2026年6月19日 記事コンテンツ公開