京都のブランド野菜「九条ねぎ」のカット商品に中国産ネギを混ぜ、「原産地 京都府」と偽って売っていた——。2026年6月22日、こうした産地偽装の疑いで、青果卸売業「葱保」(京都市南区)の元社長が逮捕されたと報じられた。
私はこれを、単なる「食品偽装」という言葉で片づけたくない。これは消費者の“選ぶ力”そのものを破壊する、極めて悪質なスラッジ(sludge)だと考えている。
何が起きたのか(事件の概要)
捜査関係者への取材として報じられた内容を、事実関係だけ整理する。
- 逮捕されたのは、青果卸売業「葱保」(京都市南区)の元社長の男。
- 容疑は不正競争防止法違反と食品表示法違反。捜査したのは京都府警生活保安課と南署。
- 男は社長在任中の今年、九条ねぎを刻んだパック商品に中国産などのネギを混ぜたうえで、「原産地 京都府」などと偽って表示し、小売店に販売した疑い。
- 同社は、府内の大手スーパーなどに、産地を偽装したカットネギを出荷していたとみられている。
- 府警は同社や関係先を家宅捜索し、伝票や商品を押収。鑑定などの結果、産地偽装を突き止めたという。
報道された容疑の核心部分のみ、出典を明記して引用する。
男は同社の社長だった今年、九条ねぎを刻んだパック商品に中国産などのネギを混ぜた上、「原産地 京都府」などと偽って表示して小売店に販売した疑いが持たれている
(出典:京都新聞 2026年6月22日配信記事より引用)
なぜ私はこれを「スラッジ」と呼ぶのか
「スラッジ」とは、行動経済学者リチャード・セイラーが「ナッジ(nudge=人をそっと良い方向へ導く設計)」の邪悪な裏返しとして名付けた言葉だ。人の判断のクセや情報不足につけ込み、本人の利益に反する選択へと誘導する仕掛けを指す。解約させない導線、隠された手数料、わざと分かりにくくした表示——これらが典型的なスラッジである。
産地偽装は、このスラッジの中でも最も悪質な部類に入る。理由は明快だ。
消費者には、見抜く手段が一切ない。
カットされ、パックに詰められ、刻まれてしまったネギの「生まれ」を、店頭で見分けられる人間はいない。だからこそ私たちは「原産地 京都府」というラベルの一行を信じて手に取る。その唯一の判断材料を、売る側が意図的に汚した。これは情報の非対称性を悪用し、消費者の判断能力そのものを無力化する行為だ。値段をごまかしたのではない。判断の前提を偽ったのである。

写真:「Finely chopped green onion on cutting board」by HungryHuy / CC BY 2.0(出典:Wikimedia Commons)
ナッジが「正しく選べるよう情報を整える」ものだとすれば、産地偽装は「正しく選べないよう情報を壊す」もの。スラッジの定義そのものだと、私は思う。
「初めて」ではないという重さ
そして見過ごせないのが、これが京都・南区で起きた“再犯”の構図だという点だ。
九条ねぎの産地偽装をめぐっては、2017年にも、中国産ネギなどを混ぜて不正に販売したとして、京都府警が南区の青果卸会社の社長ら男女3人を逮捕している。
同じ品種、同じ地域で、9年を経て再び——。これは個人の出来心ではなく、ブランドの信頼を換金できてしまう構造的なスラッジが、業界に温存され続けていることを示している。一度の摘発では断ち切れていない、という事実こそが重い。
「九条ねぎ」というブランドが背負わされたもの
九条ねぎは、南区の九条周辺で古くから栽培されてきたネギで、京都府が指定する「京のブランド産品」の一つだ。近畿圏や首都圏へ出荷され、加工したカットネギとしても人気が高い。
ブランドとは、突き詰めれば「名前を信じてもらえること」だ。その信頼に、生産者は長い時間をかけて品質を積み上げてきた。産地偽装は、その積み上げにタダ乗りして食い荒らす。被害者は買わされた消費者だけではない。真面目に九条ねぎを育ててきた生産者こそ、最大の被害者だ。
まとめ──私たちが信じているのは「ラベルの一行」だ
加工食品の前で、私たちは無力だ。刻まれたネギの産地を、自分の目で確かめる術はない。だからこそ表示は神聖でなければならず、それを偽る行為は「軽い嘘」では断じてない。消費者の判断を根こそぎ奪うスラッジである。
事実関係は今後の捜査と司法判断に委ねられるが、産地表示への信頼が揺らげば、損なわれるのは京野菜全体の価値だ。私はこの一件を、忘れないために書き残しておく。
出典・参考
本件は京都新聞2026年6月22日配信記事に基づく。報道元の記事は下記(外部リンク・nofollow)。
京都新聞|京野菜「九条ねぎ」に「中国産」まぜ販売、産地偽装の疑い 青果卸売業の元社長の男逮捕
更新履歴
第1稿 2026年6月22日
