石油、原油の内訳を冷蔵庫に例えよう~エネルギー調達を安定させるために~

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石油、原油の内訳を冷蔵庫に例えよう~エネルギー調達を安定させるために~

 「ガソリンが値上がりしている」「ジェット燃料が足りない」というニュースを、わたしも毎日のように目にしています。ところが、よくよく考えると、原油そのものは何種類もの成分が混ざった液体で、「ガソリンだけ買ってくる」というような調達は物理的にできません。そこで今回は、原油を"冷蔵庫"にたとえて、エネルギーがなぜ計画的に調達しなければならないのか、学生や一般の方にもイメージしやすい形で書いてみます。

原油ってそもそも何?

 原油とは、地中から採れた未精製の石油のことです。見た目は黒っぽい液体ですが、中身はたくさんの成分が混ざった混合液のような状態です。

原油は軽い成分から重い成分まで混ざった混合物

 上の図のように、原油のなかには、

  • 軽い成分(ガスになりやすい)
  • 燃えやすい成分(ガソリン・灯油の元)
  • 粘度の高い成分(軽油の元)
  • 重い成分(重油・アスファルトの元)

 が、一つのビーカーのなかにまとまって入っているイメージです。わたしたちが普段使う「ガソリン」「灯油」「ジェット燃料」などは、この混合物を分ける作業を経て、はじめて製品として使える状態になります。

蒸留 = 原油を成分ごとに分ける作業

 原油を成分ごとに分ける工程を、常圧蒸留と呼びます。仕組みはいたってシンプルで、「下から熱して、蒸発しやすい軽い成分から順に上に上がってくるのを、段ごとに抜き取る」というものです。

常圧蒸留の基本原理

 下から熱すると、蒸発しやすい軽い成分LPG)が一番上に、そして、ナフサ → 灯油 → 軽油 → 重油の順に、下に行くほど重い成分が取り出せます。わたしがこの図で一番伝えたいのは、「蒸留装置に原油を流し込んだ時点で、どの製品をどれだけ作るかは自動的に決まってしまう」という事実です。

できあがる製品と、わたしたちの生活のつながり

蒸留で得られる各成分の用途一覧

 各成分がどこで使われているか、わたしが身近なものに当てはめて整理します。

成分 主な用途
LPG 都市ガス、プロパンガス、タクシー燃料
ナフサ プラスチック・ペットボトル・レジ袋の原料
灯油 暖房用灯油、ジェット燃料
軽油 トラック、バス、ディーゼル車
重油 船舶、病院・ショッピングモール・ホテルの自家発電

 一つの原油から、ガスから重油まで生活インフラ全体を支える5種類が同時に生まれていることが分かります。

日本が依存する中東原油の配分比率

 ここで、わたしたち日本が約9割を頼っている中東原油Arabian Heavyなど重質・高硫黄油)の典型的な製品構成比を整理します。

製品区分 比率(中東重質原油)
LPG 2〜4%
ナフサ(ガソリン基材) 15〜20%
灯油(ジェット燃料含む) 10〜15%
軽油(ディーゼル) 20〜25%
大気残渣(重油・アスファルト原料) 40〜50%

 重要なのは、製油所の装置構成(FCC・ハイドロクラッカー・コーカーなど二次装置)で最終比率が調整されるものの、原油の素性そのものが重質なので、どうしてもガソリン・灯油が少なめ、重油・残渣が多めになりがち、という点です。北海油田や米国シェールのような軽質原油と比べると、日本で取り扱う中東原油は「ガソリンが少なく、重油が多い」傾向にあります。

参考:

冷蔵庫にたとえるとどうなるか

 ここからが、わたしが今回一番書きたかったところです。原油調達の仕組みを、一般家庭の冷蔵庫にたとえてみます。

ある家庭の冷蔵庫 飲み物だけがない

 冷蔵庫のなかを見ると、

  • 肉:十分ある
  • 麺類:十分ある
  • 冷凍食品:十分ある
  • 野菜:十分ある
  • 飲み物:全くない

 という状態だったとします。普通なら「牛乳・コーヒー・ジュースだけ買いに行こう」となるところですが、ここで"飲み物だけ買えないルール"が適用される、というのが原油調達の現実です。

「飲み物だけ買う」ができない世界

 原油は、蒸留の過程で5成分すべてが一気に出てくるので、「ジェット燃料だけ欲しい」「ガソリンだけ仕入れたい」ということが構造的に不可能です。

 冷蔵庫の例でいうと、飲み物を補充したければ、肉も麺類も冷凍食品も野菜もセットで買ってこなくてはいけない、そんな制約付きの買い物のイメージです。当然ですが、冷蔵庫には収まりきらない食材があふれ、賞味期限切れで捨てるか、近所にタダ同然で配るしかありません。

資源→分解→複数の産物→偏り発生→調整・配分の流れ

 わたしは、この「調整・配分」のところを、日本のエネルギー政策の一番の頭の痛いポイントだと感じています。

日本で余っている軽油、足りないジェット燃料

 実際に、日本国内でも「余る燃料」と「足りない燃料」の差がくっきり出ています。

軽油は余って輸出している

 ディーゼル車が主流の欧州では軽油のほうが高く取引されますが、日本はガソリン主体の車社会のため、軽油の国内需要がそれほど伸びません。結果として、日本で精製された軽油は余剰分を輸出している状態が続いています。わたしも「なぜ日本だと軽油のほうがガソリンより安いの?」という質問を受けることがありますが、これはまさに冷蔵庫の野菜が余って安売りされている状態と同じ構造です。

ジェット燃料は慢性的に不足している

 逆に、ジェット燃料は慢性的に足りていません。特に地方空港で深刻で、航空会社が新規就航したくても給油ができず就航を断念するケースが起きています。わたしが把握している範囲では、広島空港・帯広空港などで、この問題が報じられています。

 原油の素性上、灯油(ジェット燃料を含む)の比率は10〜15%程度。国内の航空需要が想定を超えて伸びると、蒸留の比率を大きく変えないと対応できず、燃料を"取り合う"構図が地方で先に顕在化している、というのがわたしの見立てです。

エネルギー調達には「計画性」と「配分の議論」が欠かせない

 2026年に入ってからも、イラン・アメリカ・イスラエルの緊張で原油市場は大きく揺れています。加えて、日本国内では原子力発電所の再稼働石炭火力発電所の延命(1年間の稼働承認が下りた案件もある)といった、以前なら議論のテーブルにすら乗らなかった選択肢が、真面目に検討されるようになりました。

 わたしは、混乱が収まった後こそ、「どの資源を、どの比率で、どこから調達するか」という配分の議論を、国として冷静に組み直すべきだと思っています。自国で資源を産み出せない日本にとって、エネルギーの調達と配分は国民の生命に直結する論点だと、今回改めて強く感じました。

まとめ:冷蔵庫をのぞく気持ちで、原油を見てみる

 最後に、本記事のポイントを自分の言葉で整理します。

  • 原油は5つの成分が混ざったビーカーのような状態で、蒸留で一気に分離される
  • どの製品をどれだけ作るかは、原油の素性と装置構成でほぼ決まる
  • 「ガソリンだけ」「ジェット燃料だけ」の調達は構造上できない
  • 冷蔵庫でいう「飲み物だけ買えない」状態。偏れば余り、捨てるか輸出することになる
  • 日本は軽油が余って輸出、ジェット燃料が足りず地方就航を断念という歪みを抱えている
  • 地政学リスクを前提に、原発・石炭火力を含めた配分の議論が必要

 冷蔵庫は毎日のぞく場所ですが、その視点を原油に当てると、いつものエネルギーニュースが少し違って見えてくるはずです。わたしも、今後のエネルギー政策の動向は、「この冷蔵庫、今どこに偏っているか?」という目線で追い続けようと思います。

更新履歴

  • 第1稿投稿 2026年4月22日 19時00分(記事コンテンツアップ)