IGF-UA 2025(ウクライナIGF・第16回) 詳報 — 議事録ダイジェストと3行まとめ

Ukraine IGF 2025 キーウ — サムネイル

3行まとめ

Ukraine IGF 2025 キーウ — 3行まとめ

  1. 2025年11月19〜21日、第16回ウクライナIGF(IGF-UA 2025)が戦時下4度目のハイブリッド開催。「インターネットの脱占領」「戦時のネット接続の強靱性」「サイバー犯罪条約」「IGFマンデートの行方」など7セクションを討議した。
  2. 占領地で奪われたIPアドレスやドメインを取り戻す国際メカニズムの不在、ネット遮断の世界的分類の見直し、ロシアが復活を図る「.su」ドメイン問題など、ウクライナ発の論点を国際アジェンダへ接続。外務省サイバー外交部門も組織委に加わった。
  3. 参加者は「デジタル戦線は国家防衛の鍵となる戦線の一つ」と総括した。戦時下で蓄積されたネット維持のノウハウを「世界の強靱性の基盤となる知的資産」として体系化する方針は、日本を含む各国の危機対応に示唆を与える。

こんにちは、中澤です。この記事は IGF-UA 2025(ウクライナIGF・第16回) を、公式発表・議事録・現地報道にあたって整理した詳報です。忙しい方は上の3行まとめと図解だけでも骨子がつかめます。

大会の基本情報(公式発表より)

Ukraine IGF 2025 キーウ — 大会 基本情報

項目 内容
正式名称 IGF-UA 2025(ウクライナIGF・第16回)
回次 第16回
会期 2025-11-19 〜 2025-11-21
会場 ハイブリッド(キーウのアダマント社敷地内の防護拠点+ビデオ会議)
テーマ 地域の共通課題
主催 インターネット協会(InAU)、USPP科学IT委員会、NGO欧州メディア・プラットフォーム、Hostmaster社(後援: 最高会議デジタル変革委員会、外務省、デジタル変革省、電子通信規制庁NKEK/スポンサー: RIPE NCC、ICANN)

(出典: 文末の出典一覧を参照)

ディスカッション・ダイジェスト(議事録より)

Ukraine IGF 2025 キーウ — 議論の見取り図

現地の議事録・セッション記録から、議論の核心部分を抜粋・翻訳してお届けします。

1. インターネットの「脱占領」 — 奪われたデジタル資源を取り戻す

取り上げたセッション: セクション2「インターネットの脱占領とデジタル空間におけるロシアの影響力の縮小」(モデレーター: Olena Kushnir、InAU)

  • ロシアは占領地でルーティング・ドメイン・ネットワークインフラを組織的に改変しており、経路スナップショットやドメイン変更記録などの証拠文書化が国際裁判の基礎になると報告された(SUNIC・Tetyana Dolinska)。ヘルソンでのネット復旧の実践例では、ロシアが自国事業者経由へのトラフィック迂回を試みたことも共有された [1][3]
  • 「IPアドレスとAS番号の窃取はデジタル主権の侵害」であり、奪われたデジタル資源を返還させる国際メカニズムは必要だが未だ存在しない、と結論。経路・ドメイン・IPブロックの変更を記録する「デジタル占領レジストリ」の創設が提案された [1][3]
  • デジタル変革省のYuriy Matsykは、ICANN・ITU・GACなど国際組織がデジタル資源返還に果たす役割を強調。「.uaドメインは戦時下でも安定を維持しており、デジタルアイデンティティと国家安全保障の一部」(Hostmaster・Svitlana Tkachenko)とされた [1][3]

2. 戦時のネット接続の強靱性 — 遮断の世界的分類を書き換える

取り上げたセッション: セクション4「戦時におけるインターネットアクセスの強靱性(ブロッキング、ネット遮断)」(モデレーター: Yuriy Matsyk/Oleksiy Semenyaka)

  • RIPE NCCのSemenyakaが、既存のインターネット遮断の世界的分類(タクソノミー)は技術的障害や政治的検閲を前提としており、自然災害や「他国による敵対行為・戦争遂行」を織り込んだ再定義が必要だと提起した [1]
  • ヘルソン州の通信事業者が、占領と砲撃の下での不断のネットワーク運用・新たな業務手順・技術的解決策を報告。「収集された情報群はウクライナ独自のノウハウであり、将来の危機に耐えるネットワークを世界中で構築する基盤になり得る知的資産」として体系化・保存する方針が確認された [1]
  • 「今日、通信は娯楽やビジネスではなく、安全や食料と並ぶ人間の基本的ニーズである。情報を得て、家族と連絡を取り、助けを呼べることが命を救う」との認識が共有された [1]

3. サイバー犯罪をめぐる2つの条約 — ブダペスト条約と国連条約の緊張

取り上げたセッション: セクション5「サイバー犯罪対策における欧州評議会と国連のアプローチ比較」(モデレーター: Oksana Prykhodko)

  • 欧州評議会サイバー犯罪プログラム室のGiorgi Jokhadzeと、EUサイバーセキュリティ庁(ENISA)駐在の国家安全保障国防会議代表Oleksiy Tkachenkoが登壇。ウクライナが2005年に批准したブダペスト条約は「人権・透明性・法の支配を尊重した信頼できる国際協力の明確なメカニズム」であり、戦時・EU統合の両面で重要と確認された [1]
  • 一方、ロシア・イラン・北朝鮮などの強い支持で2024年に採択された国連サイバー犯罪条約は、ブダペスト条約と並行する証拠枠組みを作り、補完的な側面はあるものの、セーフガードの弱さと断片化のリスクを持ち込み、表現の自由など人権への影響が懸念されるとされた。ウクライナは同条約の起草プロセスに参加していない [1]

4. ドメイン空間の争点 — 安定する.uaと、消えない.su

取り上げたセッション: セクション6「ドメイン空間の現在の課題」(モデレーター: Oksana Prykhodko)

  • 参加者は.uaドメイン運営が技術・管理・国際協力のすべての面で例外的な安定を保っていることを確認。一方、2026年に始まるICANNの新gTLDラウンドは「機会より挑戦が多い」とされた [1]
  • 政府機関のメールをGOV.UA/.УКРゾーン内に限定する閣議決定851/2015の「ウクライナのインターネット・セグメント」という文言は「One World – One Internet」原則に反し、ロシア・中国型のインターネットガバナンス原則を暗示するとして、廃止要請が提案された [1]
  • ソ連崩壊後の1992年にISO 3166-1から削除されながら「排他的予約」として存続する.suドメインをロシアが復活させようとしている問題と、キリル文字ccTLD「.укр」の運営の不透明性(IANA掲載の公式連絡先が機能しない)へのICANNとの非公式協議の開始が報告された [1]

5. IGFマンデートの行方 — WSIS+20と「来年の秋まで生き延びよう」

取り上げたセッション: セクション7「インターネットガバナンスの未来とIGFマンデート」(モデレーター: Oksana Prykhodko/Tetyana Dolinska)

  • IGF事務局のAnja Gengo、ICANN、RIPE NCC、IGF Supporting Association、EuroDIGのOlivier Crépin-Leblondらが参加。12月17日の国連総会採決でIGFのマンデートは(形を変えつつ)およそ10年延長される見通しが大勢を占めた [1][3]
  • マンデートの有無にかかわらず、国・地域・グローバルの各レベルで議論を起こせるオープンなマルチステークホルダー・プラットフォームの存在自体に価値がある、と全参加者が強調した [1][3]
  • IGF-UAとYouth IGF-UAの共同予算はこの年RIPE NCCとICANNが支え、長年のIGF SA支援の残余も充当。ウクライナのステークホルダーの一部は悲観的だったが、「来年の秋まで生き延びよう」という冗談は疑念ではなく挑戦の表明だ、と報告書は結んでいる [1][3]

3分ショートトーク — よくある疑問に答えます

Q. 戦時下4年目、何が変わった?

A. 議題が「守る」から「取り戻す」へ進みました。占領地で奪われたIPアドレスやドメインの返還を求める「インターネットの脱占領」が独立セクションになり、国際的な返還メカニズムの創設が提起されました。

Q. 一番世界に影響しそうな議論は?

A. 2つあります。ネット遮断の世界的分類に「戦争・敵対行為」を組み込む提案と、ロシア主導色の強い国連サイバー犯罪条約への懸念表明です。どちらも国際的なルール形成に直結します。

Q. 日本に関係ある?

A. あります。ウクライナが体系化を宣言した「危機下でネットを維持するノウハウ」は、災害時の通信確保という日本の課題への直接の参考資料です。IGFマンデート延長の議論は日本のIGF活動の前提でもあります。

Ukraine IGF ってどんな会議?(はじめての方へ)

Ukraine IGF 2025 キーウ — Ukraine IGFの位置づけ

Ukraine IGFは、地域・国レベルでインターネットガバナンスを議論するIGFイニシアティブのひとつです。

日本の私たちへの影響

この大会の議論は、数年内に日本のデジタル政策・プラットフォームのルール・AI規制に反映 されていきます。2025年大会で確認された方針は、あなたが毎日使うスマホ・SNS・AIサービスの「次のルール」の土台です。

出典・参考資料

  1. Ukrainian IGF-UA 2025 Annual Report(XVI Український форум 公式年次報告書・英語DOCX。表題の「XV」は誤記で本文は第16回) — IGF-UA組織委員会(参照: 2026-07-17)
  2. Ukrainian Internet Governance Forum IGF-UA, Kyiv, 19-21 November 2025(国連IGFサイト掲載版の年次報告書) — 国連IGF事務局ファイルデポ(参照: 2026-07-17)
  3. У Києві відбувся 16-й Український форум з управління Інтернетом IGF-UA 2025(開催報告ニュース・2025年11月22日) — IGF-UA組織委員会(参照: 2026-07-17)
  4. IGF-UA 2025 公式アーカイブサイト(16-й Український форум з управління Інтернетом IGF-UA 2025) — IGF-UA組織委員会(参照: 2026-07-17)
  5. IGF-UA 公式報告書一覧(Річний звіт IGF-UA 2025「16-й Український форум」の配布ページ) — IGF-UA組織委員会(参照: 2026-07-17)

※ 記事中の [数字] は出典番号を示します。


関連リンク

更新履歴

第1稿投稿 2026年7月18日 15時30分(記事コンテンツアップ)

— 中澤祐樹