3行まとめ
- 2018年11月12〜14日、パリのユネスコ本部で第13回IGFが開催。テーマは「Internet of Trust(信頼のインターネット)」で、143カ国から3,000人超が171セッションに参加した。
- マクロン仏大統領が開会式で「規制こそ自由で開かれた安全なインターネットの条件」と訴えてIGF改革を迫り、同日にサイバー空間の9原則「パリ・コール」を発表。グテーレス国連事務総長が初めて対面で開会した年でもある。
- 放任の「カリフォルニア型」でも国家統制の「中国型」でもない「第三の道」を問うたこの大会は、その後のプラットフォーム規制論の出発点。日本のAI・偽情報対策の議論にもつながる原点だ。
こんにちは、中澤です。この記事は グローバルIGF 2018年 パリ大会 を、公式発表・議事録・現地報道にあたって整理した詳報です。忙しい方は上の3行まとめと図解だけでも骨子がつかめます。
大会の基本情報(公式発表より)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 回次 | 第13回年次会合 |
| 会期 | 2018-11-12 〜 2018-11-14 |
| 会場 | ユネスコ本部(パリ) |
| テーマ | Internet of Trust(信頼のインターネット) |
| 参加者 | 現地参加3,000人超(143カ国、62%が初参加、女性比率43%) |
| オンライン参加 | オンライン参加約1,400人(101カ国、世界35のリモートハブ) |
| セッション数 | 171 |
| 主催 | フランス政府と国連(会場はユネスコ本部) |
| 成果文書 | IGF 2018メッセージとチェアサマリー。初日にマクロン大統領が「サイバー空間の信頼と安全のためのパリ・コール」(9原則)を発表 |
| 特記 | グテーレス国連事務総長が事務総長として初めて対面でIGFを開会 |
| 次回開催 | 閉会時に2019年の開催国はドイツと発表 |
(出典: 文末の出典一覧を参照)
ディスカッション・ダイジェスト(議事録より)
現地の議事録・セッション記録から、議論の核心部分を抜粋・翻訳してお届けします。
1. マクロン演説 — 「規制こそ自由なインターネットの条件」とIGF改革要求
取り上げたセッション: 開会式(11月12日、ユネスコ本部)
「私は規制が必要だと深く信じています。それこそが、自由で開かれた安全なインターネットが成功するための条件です」
— エマニュエル・マクロン(フランス大統領) [2][3][4]
「市場の見えざる手に決定を委ねるのでも、単なる国家主導の開発でもなく、マルチステークホルダーによるルールと規制づくりこそが第三の、そして最善の道です」
— エマニュエル・マクロン(フランス大統領) [2][3][4]
- 業界の自主規制に任せる「カリフォルニア型」と政府がすべてを管理する「中国型」の二者択一を偽りの選択肢として退け、協調による規制づくりを「第三の道」と位置づけた [2][3][4]
- IGFは「具体的な提案を生み出す機関」へ改革し、国連事務総長の直属にすべきと提案。議論だけの場にとどまるなという要求は、従来のマルチステークホルダー方式の在り方をめぐる賛否両論を巻き起こした [2][3][4]
- 著作権保護についても「著作権を守ることはインターネットを窒息させることではない。むしろその逆だ」と規制を擁護した [2][3][4]
2. パリ・コール — サイバー空間の信頼と安全のための9原則
取り上げたセッション: 開会式でマクロン大統領が発表(11月12日)。パリ平和フォーラムと連動
- 個人と重要インフラの保護、インターネットの一般的可用性・完全性への攻撃防止、選挙介入への対処、民間による報復ハッキング(ハックバック)の禁止など9つの原則を掲げた [4][7][8]
- 政府・企業・市民社会が同じ宣言を支持する新しい形式で、マイクロソフトやグーグルも賛同。一方、米国・中国・ロシア・イスラエル・イランは発表時点で署名しなかった [4][7][8]
- その後も支持は拡大し、2021年2月時点で79カ国・688企業・374市民社会団体など計1,000超が賛同する世界最大級のマルチステークホルダー型サイバーセキュリティ宣言に成長した [4][7][8]
3. 国連事務総長が初登壇 — デジタル協力の再設計
取り上げたセッション: 開会式(11月12日)および閉会関連セッション
「デジタル時代の中澤の運命を、市場の見えざる手に委ねることはできません」
— アントニオ・グテーレス(国連事務総長) [3][5]
「ガバナンスにおいて中澤は、最初にインターネットを築いた人々と同じくらい創造的で大胆でなければなりません」
— アントニオ・グテーレス(国連事務総長) [3][5]
- グテーレス氏は事務総長として初めて対面でIGFを開会。市場任せも古典的な政府規制も不十分だとして、新しいガバナンスの創造を呼びかけた [3][5]
- 同年7月に発足させた「デジタル協力に関するハイレベルパネル」とIGFの連携を強調。この流れは後のグローバル・デジタル・コンパクトへつながっていく [3][5]
4. AI倫理とフロンティア技術 — ユネスコ開催ならではの議題
取り上げたセッション: 開会式(アズレー事務局長挨拶)およびAI・新興技術関連セッション
「人工知能の倫理原則に関するグローバルな対話を開始します」
— オードレ・アズレー(ユネスコ事務局長) [6]
- AIとフロンティア技術の影響が、デジタルデバイド、ジェンダー平等、ヘイトスピーチ・暴力的過激主義対策と並ぶ主要議題に据えられた [6]
- 会場を提供したユネスコは、開かれた・透明で・包摂的なインターネットガバナンスを訴え、AI倫理の国際対話を始めると表明。教育・文化機関がAIガバナンス論議の舞台になった [6]
5. 偽情報とネット空間の信頼 — 「Internet of Trust」の核心
取り上げたセッション: 偽情報・信頼関連セッションおよび閉会セッション(11月14日)
「社会は、デジタル社会も含めて、信頼なしには機能しません」
— ファブリツィオ・ホックシールド(国連事務次長補) [5]
「今日の社会が直面する課題を前に、政府の不作為という選択肢はありません」
— ムニール・マジュビ(フランス・デジタル担当閣外相) [5]
- フェイクニュース・偽情報対策、データ保護、サイバーセキュリティと倫理が3日間を貫くテーマとなり、法の支配と国際協力の重要性が確認された [5]
- ジェンダー格差や十分に代表されていないステークホルダーの包摂も議論され、若者の71%超がすでにオンラインにあるとして若者参画が強調された [5]
- 閉会時に2019年開催国がドイツと発表され、「規制と信頼」の議論は翌年のベルリンへ引き継がれた [5]
3分ショートトーク — よくある疑問に答えます
Q. そもそも何が決まった会議なの?
A. IGF自体は何かを「決める」場ではありませんが、この年はフランスが主催国の立場を活かし、サイバー空間の行動規範「パリ・コール」(9原則)を初日に発表しました。政府だけでなく企業やNGOも同じ文書を支持する、新しい形の国際的な約束でした。
Q. 一番モメた点は?
A. マクロン大統領の開会演説です。「IGFは議論だけでなく具体的な提案を出す機関に変わるべきだ」と改革を迫り、規制強化を正面から唱えたため、政府・企業・市民が対等に運営する従来のマルチステークホルダー方式を弱めるのではないかと、賛否両論が巻き起こりました。
Q. 自分に関係ある?
A. あります。選挙への偽情報介入やサイバー攻撃から市民を守るというパリ・コールの原則は、その後の各国のプラットフォーム規制やサイバーセキュリティ政策の土台になりました。日本で進む偽情報対策やAIルールづくりの議論も、この「第三の道」の延長線上にあります。
グローバルIGF ってどんな会議?(はじめての方へ)
グローバルIGFは、国連の下で2006年から毎年開かれている、インターネットに関わる世界中の人が立場を超えて話し合う国際会議です(マルチステークホルダー方式)。
日本の私たちへの影響
この大会の議論は、数年内に日本のデジタル政策・プラットフォームのルール・AI規制に反映 されていきます。2018年大会で確認された方針は、あなたが毎日使うスマホ・SNS・AIサービスの「次のルール」の土台です。
出典・参考資料
- IGF 2018 Attendance & Programme Statistics — 国連IGF事務局 (UN IGF Secretariat)(参照: 2026-07-10)
- IGF 2018 Speech by French President Emmanuel Macron(公式記録) — 国連IGF事務局 (UN IGF Secretariat)(参照: 2026-07-10)
- IGF Needs Bold Reform, Internet Needs More Regulation, Says President Macron — Intellectual Property Watch(参照: 2026-07-10)
- IGF 2018 Opening Plenary: French President Emmanuel Macron Urges More Regulation, Digital Cooperation, IGF Outputs — Elon University, Imagining the Internet(参照: 2026-07-10)
- Global cooperation and regulation key in addressing multilayered threats posed by new technology (IGF 2018 closes) — UN DESA(参照: 2026-07-10)
- Calling for an 'Internet of Trust', Internet Governance Forum opens annual meeting at UNESCO — UNESCO(参照: 2026-07-10)
- Cybersecurity: Paris Call for Trust and Security in Cyberspace — フランス国連代表部 (Permanent Mission of France to the UN)(参照: 2026-07-10)
- The Paris Call and Activating Global Cyber Norms — German Marshall Fund of the United States(参照: 2026-07-10)
※ 記事中の [数字] は出典番号を示します。
関連リンク
- IGF公式(リージョナル/ナショナル一覧): https://www.intgovforum.org/en/content/national-and-regional-igf-initiatives
- 日本IGF: https://japanigf.jp/
- 参考:中澤祐樹ブログ https://nkzw.jp/category/igf/
更新履歴
第1稿投稿 2018年11月12日 17:00(記事コンテンツアップ)
第2稿更新 2026年7月10日 14:28(詳報版へ全面改稿:3行まとめ・議事録ダイジェスト・3分ショートトーク・出典一覧・図解を追加(引用は出典実在のもののみ収録))
— 中澤祐樹
