グローバルIGF 2009 シャルム・エル・シェイク大会 詳報 — 議事録ダイジェストと3行まとめ

IGF 2009 シャルム・エル・シェイク — サムネイル

3行まとめ

IGF 2009 シャルム・エル・シェイク — 3行まとめ

  1. 2009年11月15〜18日、エジプトの保養地シャルム・エル・シェイクで第4回IGFが開催。112カ国から1,800人超が参加する当時最大規模となり、テーマ「すべての人に機会を」を掲げました。
  2. 最大の焦点はIGF自体の存続の是非。国連公式協議では発言者47人中45人が継続を支持し(反対は中国とサウジアラビアのみ)、翌2010年の国連総会決議A/65/141で5年延長が決まりました。ホスト国エジプトはアラビア文字ドメインを発表しています。
  3. 非ラテン文字ドメイン時代の幕開けと「IGF存続」の分水嶺となった大会です。一方、中国の検閲に触れたポスターが会場で撤去される事件も起き、国連の場での言論の限界を浮き彫りにしました。

こんにちは、中澤です。この記事は グローバルIGF 2009年 シャルム・エル・シェイク大会 を、公式発表・議事録・現地報道にあたって整理した詳報です。忙しい方は上の3行まとめと図解だけでも骨子がつかめます。

大会の基本情報(公式発表より)

IGF 2009 シャルム・エル・シェイク — 大会 基本情報

項目 内容
回次 第4回IGF
会期 2009-11-15 〜 2009-11-18
会場 シャルム・エル・シェイク(エジプト・シナイ半島)
テーマ Internet Governance – Creating Opportunities for All(インターネットガバナンス — すべての人に機会を)
参加者 1,800人超(当時のIGF史上最大)
参加国・地域 112
参加政府数 96
取材メディア 122
リモートハブ 11
主催 エジプト政府と国連
成果文書 議長サマリー(Chairman's Summary)。存続協議の結果は事務総長報告を経て、2010年の国連総会決議A/65/141によるマンデート5年延長(2011〜2015年)につながった

(出典: 文末の出典一覧を参照)

ディスカッション・ダイジェスト(議事録より)

IGF 2009 シャルム・エル・シェイク — 議論の見取り図

現地の議事録・セッション記録から、議論の核心部分を抜粋・翻訳してお届けします。

1. IGF存続問題 — 発言者47人、反対は中国とサウジアラビアだけ

取り上げたセッション: メインセッション「Taking Stock and the Way Forward」(11月18日、シャ・ズカン国連経済社会局担当事務次長が議長、マルクス・クンマーIGF事務局長が進行)

「IGFは、インターネットの重要課題を議論できる中立的な場を提供してきた。必ず継続されるべきだ」
ロバート・カーン(TCP/IP共同開発者) [6][5][3]

「意思決定をしないことこそが、IGFを私たち全員にとってこれほど重要な活動にしている」
ヴィント・サーフ(TCP/IP共同開発者、ビデオ参加) [6][5][3]

「現行のIGFは、重要インターネット資源の一方的管理という問題を実質的に解決できない。IGFの改革なくして、5年の延長を与える必要はない」
陳因(中国代表団長) [6][5][3]

  • チュニス・アジェンダが求めた「創設5年以内の存続審査」の公式協議として開催され、各ステークホルダー47人が3分ずつ意見表明。45人が継続を支持し、反対は中国とサウジアラビアの2カ国のみでした [6][5][3]
  • サウジアラビアのアブドゥラ・アル=ダラブ通信IT委員会副総裁は「このフォーラムはIGFとは別の道から始めるべきだ」と主張し、より政府間主義的な枠組みを求めました [6][5][3]
  • 協議結果はシャ・ズカン事務次長から事務総長に報告され、2010年の国連総会決議A/65/141でマンデートの5年延長(2011〜2015年)が決定しました [6][5][3]

2. 多言語ドメインの幕開け — 「インターネットはアラビア語を話す」

取り上げたセッション: 開会式(11月15日)でのホスト国エジプトの発表

「インターネットはいま、アラビア語を話すようになった」
ターレク・カーメル(エジプト通信・情報技術大臣) [8]

  • エジプトは、ICANNが2009年10月に決定した「IDN ccTLDファストトラック」に基づき、アラブ諸国で初めて非ラテン文字の国別ドメイン(アラビア文字の「.エジプト」)を申請すると開会式で発表しました [8]
  • ヤフー共同創業者ジェリー・ヤンは、世界に3億人以上のアラビア語話者がいるのにオンラインコンテンツに占めるアラビア語は1%未満だと指摘し、翌年からアラビア語のメール・メッセンジャー提供を表明しました [8]

3. 会場で起きた「検閲」— 万里のファイアウォールに触れたポスター撤去事件

取り上げたセッション: OpenNet Initiative(ONI)の書籍披露レセプション(11月15日)

「誰かが中国政府の歓心を買おうとしているというだけで中澤のイベントを検閲する、この非民主的な行為を非難します」
アル・アレグレ(フィリピン・メディアオルタナティブ財団) [7]

  • 検閲研究プロジェクトONIが新刊『Access Controlled』の披露レセプションに掲げたポスターに中国の「万里のファイアウォール(Great Firewall)」への言及があったため、国連の警備担当者が撤去。担当者は当初「加盟国からの異議」を理由に挙げました [7]
  • ONIのロン・デイバート(トロント大学シチズンラボ)は、この「検閲」について国連人権特別報告者に申し立てを行うと表明。インターネットガバナンスを議論する場で検閲が起きたことに、市民社会から強い批判が上がりました [7]

4. アクセスと開発 — 「すべての人に機会を」の実像

取り上げたセッション: 開会式(11月15日)シャ・ズカン国連事務次長の開会演説、およびアクセスと多様性セッション

「良質で民主的なインターネットガバナンスは、すべての人の発展を実現するための手段です」
シャ・ズカン(沙祖康、国連経済社会局担当事務次長) [4]

  • 開会演説では、オンライン人口が世界の約4分の1にあたる15億人を超えた一方、ネット普及率は先進地域64%に対し途上国17.5%、後発開発途上国はわずか1.5%(いずれも2009年)という深刻な格差が示されました [4]
  • シャ・ズカンは「IGFは法的強制ではなく、自発的な協力によって機能する」と述べ、対話フォーラムとしてのIGFの性格を強調しました [4]

5. 新興課題 — ソーシャルネットワークの衝撃と若者の参加

取り上げたセッション: メインセッション「Emerging Issues: Impact of Social Networks」ほか

  • 急成長するソーシャルネットワークの社会的影響が新興課題セッションの主題に。若者のインターネットガバナンスへの参加促進が大会全体の重点テーマとされました [1][3]
  • 全会合がウェブキャストされ、メインセッションはリアルタイムで文字起こしを表示。世界11カ所のリモートハブから遠隔参加が可能となり、後の「ハイブリッドIGF」の原型となりました [1][3]

3分ショートトーク — よくある疑問に答えます

Q. そもそも何が決まった会議なの?

A. IGF自体は何かを決める場ではありませんが、この大会では「IGFを続けるべきか」を問う国連の公式協議が行われました。発言者47人中45人が継続を支持し、その結果は事務総長を通じて国連総会に届き、翌2010年の決議でマンデートの5年延長が決まりました。

Q. 一番モメた点は?

A. フォーラムの存続そのものです。中国は「重要インターネット資源の一方的管理を解決できない」として延長に反対し、サウジアラビアも別の枠組みを提案しました。さらに会場では、中国の検閲に触れたポスターを国連の警備担当者が撤去する事件が起き、「ネットガバナンスを語る場での検閲」と強く批判されました。

Q. 自分に関係ある?

A. あります。この大会でエジプトが発表したアラビア文字ドメインは、非ラテン文字でウェブアドレスを使える時代の幕開けで、日本語など各国語ドメインの普及につながる流れでした。また、ここで存続が事実上決まったからこそ、IGFは今日まで続いています。

グローバルIGF ってどんな会議?(はじめての方へ)

IGF 2009 シャルム・エル・シェイク — グローバルIGFの位置づけ

グローバルIGFは、国連の下で2006年から毎年開かれている、インターネットに関わる世界中の人が立場を超えて話し合う国際会議です(マルチステークホルダー方式)。

日本の私たちへの影響

この大会の議論は、数年内に日本のデジタル政策・プラットフォームのルール・AI規制に反映 されていきます。2009年大会で確認された方針は、あなたが毎日使うスマホ・SNS・AIサービスの「次のルール」の土台です。

出典・参考資料

  1. The IGF 2009 Meeting — 国連IGF事務局 (UN IGF Secretariat)(参照: 2026-07-10)
  2. Chairman's Summary — IGF 2009 Sharm El Sheikh (PDF) — 国連IGF事務局 (UN IGF Secretariat)(参照: 2026-07-10)
  3. Internet Governance Forum — IGF IV, Sharm El Sheikh, Egypt 2009 — Wikipedia (en)(参照: 2026-07-10)
  4. Opening Address to the Internet Governance Forum (Sha Zukang, 15 November 2009) — UN DESA(参照: 2026-07-10)
  5. Opening Statement to the Stocktaking Session of the Internet Governance Forum (Sha Zukang, 18 November 2009) — UN DESA(参照: 2026-07-10)
  6. Main Session: Desirability of Continuing Global IGF Meetings (IGF 2009) — Elon University — Imagining the Internet(参照: 2026-07-10)
  7. Anti-censorship and surveillance group censored at the Internet forum in Egypt — Association for Progressive Communications (APC)(参照: 2026-07-10)
  8. Egypt to Apply for 1st Arabic Domain Name — CBS News (AP)(参照: 2026-07-10)

※ 記事中の [数字] は出典番号を示します。


関連リンク

更新履歴

第1稿投稿 2009年11月15日 16:00(記事コンテンツアップ)

第2稿更新 2026年7月10日 14:28(詳報版へ全面改稿:3行まとめ・議事録ダイジェスト・3分ショートトーク・出典一覧・図解を追加(引用は出典実在のもののみ収録))

— 中澤祐樹