私はICANNの会議に20年来関わってきていますが、ICANN85(2026年3月)には参加できず、同僚の理事が現地から持ち帰ってくれた一次情報をベースに、ようやく動き出した新gTLDの「2ndラウンド」(ICANN呼称:2026 Round)の費用を整理しておきたいと思います。
2026年ラウンドの申請受付ウィンドウは2026年4月30日から8月12日と既に開いているので、検討中の企業や団体にとってはまさに「決断の数か月」です。私が今回まとめるのは、ICANN公式ドキュメント(Applicant Guidebook、2026 Round 版)に明記された数値のみで、理事のセッション参加メモを併用しつつ公式URLで一つひとつ裏取りしました。年間運用コスト(.brand 70-100k USD、generic 300-650k USD 等)の業界推計は、ICANNが公式に発表していないので、今回は数値として載せない方針にしました。
1.結論(最重要ポイント)
ICANN公式に明記されている費用の要点は、シンプルに次の3つです。
- 申請費用:USD 227,000(1申請あたり、1回限り)
- 追加で発生し得る公式手数料:申請内容に応じて Spec 13・Spec 9・CPE・地理的名称レビュー・Name Collision Mitigation 等が個別に発生
- 年間運用コストはICANNが公式レンジを示していない:レジストリ事業者・契約・運用設計に依存するため、見積もりは個別取得が必要
2.申請費用
ICANN公式の Applicant Guidebook (V2-2026.04.24) 3.3.1 に、次のように明記されています。
"The gTLD evaluation fee is USD 227,000 per application for all applicants, except for those submitted by qualified Applicant Support Program (ASP) applicants"
1申請あたり USD 227,000 が原則です。発展途上国向けの支援プログラム Applicant Support Program(ASP) に認定された申請者については、75〜85%の割引が適用され、USD 34,500〜USD 56,750 にまで下がります(同 3.3.1.2)。日本企業の通常案件では、まずこの USD 227,000 をベースに見ることになります。
3.申請内容に応じて発生する追加手数料
Applicant Guidebook 3.3.2 Table 3-2 には、申請の性質によって追加で発生する評価手数料が一覧で示されています。ICANN公式の金額は次のとおりです。
- .Brand TLD Eligibility Evaluation(Spec 13関連):USD 500
- Registry Operator Code of Conduct Exemption(Spec 9関連):USD 400
- Community Priority Evaluation(CPE):USD 52,936
- Geographic Names Review:USD 12,000 を上限
- Name Collision High-Risk Mitigation:USD 100,000 〜 USD 150,000
- Registry Commitments Evaluation:USD 15,000
たとえば、ブランドTLD(.brand)として申請する企業は、原則の USD 227,000 に Spec 13関連 USD 500 が上乗せされる構造です。Community申請を狙う場合は USD 52,936 の CPE 費用が別途必要で、対立する申請がある場合の「決め手」となります。Name Collision のリスクが高いと判定された文字列は、最大 USD 150,000 までの軽減策費用が追加されます。
ここはAGBにそのまま明記された金額なので、推測の余地はありません。私の経験上、申請プロジェクトの初期見積もりでは、まずこの表をそのままコピーして「申請内容に該当する追加手数料を選択する」アプローチが堅いです。
4.返金スケジュール
Applicant Guidebook 3.3.3.1 で、評価料の返金率が3段階で定義されています。
- 第1ウィンドウ:申請受領〜String Confirmation Day から10日以内に取り下げ → 65%返金
- 第2ウィンドウ:String Confirmation Day の11日後〜Application/Applicant Evaluation 開始まで → 35%返金
- 第3ウィンドウ:Application/Applicant Evaluation 開始〜Registry Agreement 締結まで → 20%返金
- Registry Agreement 締結後:返金なし(暗黙的に0%)
USD 227,000 ベースで概算すると、第1ウィンドウなら 約 USD 147,550 が戻り、第3ウィンドウまで進むと 約 USD 45,400 しか戻りません。「String Confirmation 直後の10日間」が事実上の最終撤退判断ラインであり、ここを越えてからの取り下げは経営判断としては重くなります。私は過去のラウンドの記憶からも、この10日間ルールを社内決裁プロセスに組み込んでおくことを強く勧めたいです。
5.年間コストはどう見るべきか
ここが、今回の記事で一番悩んだ部分です。「ICANN URL のみをソースに」というルールで書くと、年間の運用コスト(.brand で年70-100k USD、generic で年300-650k USD といった業界相場)はそもそも書けません。ICANNは、申請料・追加評価料・契約上の固定/変動料金(Registry-Level Transaction Fees 等)は公開していますが、「レジストリ事業を1年間回すといくらかかるか」という総額レンジは公式に出していないのです。
なので、ここは数値を出さず、コストの「構成要素」だけ列挙しておきます。具体額が必要な方は、レジストリサービス事業者から直接見積もりを取るのが現実的です。
- レジストリ運用(バックエンド事業者への委託料)
- DNSインフラ・セキュリティ
- DNS Abuse 対策(RDAP対応・WHOIS関連・乱用対応報告)
- 法務・コンプライアンス(GDPR・国内データ保護法対応)
- マーケティング・カスタマーサポート
私の感覚では、AI 時代に入ってからフィッシング・大量自動登録対策のコストが大きく膨らんでおり、前回ラウンド(2012年)の感覚で見積もると痛い目を見る領域です。ただし、これも私の主観であり、ICANN公式の数値ではありません。
6.ICANN85現地の空気感と私の見方
理事から聞いた話では、ICANN85の会場には2026年4月30日の申請ウィンドウオープンを目前に控えた緊張感が明らかに漂っていたとのことです。前回ラウンド(2012年)から14年、IGFやAPrIGFの場で何度も「いつ第2ラウンドが来るのか」と議論されてきたテーマが、ようやく実装フェーズに入った瞬間でした。
現地に行けなかった私が、それでも IGF Japan の文脈で強く感じているのは、次の2点です。
- 日本企業の.brand戦略は、防衛目的だとしても今ラウンドが現実的な最後のチャンスになりかねないこと。次の3rdラウンドは、いつになるか正直分からない。
- DNS Abuse 対策が、申請後の運用フェーズで想像以上に効いてくること。AI による自動生成ドメインや、生成AIフィッシングへの対応は、2012年時点の運用設計では足りません。
なお、これらは私自身の所感であり、ICANN公式見解ではありません。公式情報は必ず newgtldprogram.icann.org および Applicant Guidebook で一次ソースに当たってください。
おわりに
同僚の理事がICANN85現地で持ち帰ってくれた一次情報を、ICANN公式URL(newgtldprogram.icann.org および 2026 Round 版 Applicant Guidebook newgtldprogram-2026-agb.icann.org)に当てる形で整理しました。ここに書いた USD金額・パーセンテージは、すべて ICANN 公式の AGB Module 3.3 に明記されたもの です。
年間運用コストの具体額については、ICANNの公式情報の外側にあるため、続編で「私が国内のレジストリ事業者・バックエンド事業者と話してきた肌感覚」を別記事として書こうと思います。これは「ソースICANN URLのみ」の縛りを外したエッセイ枠での執筆を予定しています。
今回ラウンドを真剣に検討している日本企業の経営者・法務・情シスの方は、まず AGB Module 3「Application Submission」 を直接読むのが最短ルートです。
参照したICANN公式URL(一次ソース)
- ICANN New gTLD Program 2026 Round 公式ページ:
https://newgtldprogram.icann.org/en - Applicant Guidebook(2026 Round, V2-2026.04.24, HTML版):
https://newgtldprogram-2026-agb.icann.org/en/2-preamble.html - Module 3 Application Submission(金額・返金スケジュールの根拠):
https://newgtldprogram-2026-agb.icann.org/en/7-module-3-application-submission.html - Applicant Guidebook トップ:
https://newgtldprogram.icann.org/en/application-rounds/round2/agb
更新履歴
第1稿投稿 2026年5月19日 00時00分(記事コンテンツアップ)
